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非常宣言のしののレビュー・感想・評価

非常宣言(2020年製作の映画)
3.4
コロナ以降になるとこういうパニック映画が出てくるのか。どんどんガバガバかつウェットになっていく展開は以前なら単に凡庸なだけだったが、こういう文脈を付与されると見え方も変わってくる。本作が何に焦点を当てたかったか、人間のどんな姿を見せたかったか。時代のパッケージとして見た。

最悪の事態が発生してしまうのが中盤。この構成が特徴的で、前半は絶望の畳み掛けがえげつない。外からではなく内部の視点で機体の回転を見せる場面は見せ場で、うわ最悪だとなる。あれ、じゃあここから先は何するんだ? と思っていると、コロナ禍における不安心理を模した描写が続く。

ここがやや冗長かつ心理的な揺さぶり展開が優先になる。そもそも1日の出来事にコロナ以降の色んなことを詰め込みすぎなので、一気に作りも無茶になっていく。日本含む外国による感染者の受け入れ対応についてや、それについて自国内でも意見が二分される展開、ワクチンと変異株、企業の隠蔽など、ここ数年のアレコレがモザイク状に提示されるのは無理やり感もあるが、これは一つの時代の記録として無茶を承知で描写しているのだなとは思う。

元パイロットと副機長の因縁などの話が示すように、本作は「理不尽な災害に遭ったときの人間の姿」の提示に要諦があるわけで、コロナ以降で体感した心の動きもそこに凝縮されているようだ。理不尽な極限状況における人の無力さ弱さを描く一方で、人はそんな中でも何かを理性的に決断できるのではないか、という所に願いを込めている。何より、大人がしっかり決断して責任を取るということの重要性や、自身も不安な中でもプロフェッショナルとして職務を全うすることの尊さが強調されていたのは好感が持てる。特にチーフパーサーの描き方は素晴らしい。ああいう「最後までちゃんとあろうとする大人」の存在は本当に大切だと思う。

ただ、流石にクライマックス手前のビデオ通話やら、その後の二転三転するスペクタクルなどは盛り上げ要素でしかなく、若干うんざりはする。その結果、例えば終盤のソン・ガンホの無茶苦茶さで「責任ある意思決定」プロセスの描写が二の次になっていたり、ウェットな盛り上げのためにウイルスの潜伏期間の設定がどうでも良くなっていたりするなど、流石に詰め込み過ぎ盛り上げ過ぎの弊害も感じる。

結局、バイオテロが何とかひと段落つきました、で終わるのは現実の状況と比べると物足りないし、終盤のウェットさを抑えれば2時間切れただろとは思う。ただ、このウェットさにもそこまで嫌悪感がなかったのは、やはり前半で計算しつくされたサスペンス演出を行った上で、後半で明確にコロナ禍のアレコレを詰め込んだ「ひとつの時代の寓話」に舵を切っているから。あのウェットさに込めた願いの方に意識がいった。何より、コロナ明け元年とか言われているなかで、新年一発目にここ数年のある種の総括のようなものを体感できたのは良かった。
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