しゅう

非常宣言のしゅうのレビュー・感想・評価

非常宣言(2020年製作の映画)
3.8
字幕版を鑑賞。

韓国からハワイへと飛び立った国際便の機内で発生したバイオテロを巡る、パニックムービー。

この映画韓国では2020年度の公開らしいが、世界的なパンデミックが発生したその年にこれを発表するタイミングの絶妙さは凄いし、もし年初からの大流行後に企画・製作したのならもっと凄い(公式サイトにはその辺の経緯が記載されていないので良く分からないが)。

終盤にかけて、パニックを盛り上げる機能としてだけの"為にする"展開が続くので、その強引さにやや鼻白む。特に成田着陸を巡るエピソードは、事なかれ主義の日本政府や自衛隊が所属も目的も明確な民間機にあの強硬な対応は無いだろう(ただ、その後の"遺憾の意"声明の空疎なリアリティには笑ってしまったが)。

無論、これは心理的な葛藤や対立構造を産み出すための敢えての展開である事は分かる。

この映画を観た人達は皆、横浜港に一カ月半留め置かれたダイヤモンド・プリンセス号や、船内での新型コロナ発生が確認された後各国で寄港を拒否されたクルーズ船の事を思い浮かべたに違いない。

当時我々は治療法も定かでは無い未知のウイルスの致死率の高さに怯えて、クルーズ船とその乗客をウイルスそのものの様に忌み嫌い拒絶した。その間船内に留め置かれた乗客たちの動揺と恐怖は如何ばかりだったろう。

その後も、新型コロナを巡る恐怖心からくる拒絶や差別とそこから生まれる対立や分断を散々見てきた身としては、この映画はそんなパンデミック後の世界の縮図に思えるし、未だ世界が混乱の只中にあったその時に恐怖と分断を乗り越える物語を産み出したこの映画の造り手たちには感服する他無い。
しゅう

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