猫山

非常宣言の猫山のネタバレレビュー・内容・結末

非常宣言(2020年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

ツッコミどころはあるが楽しめる映画だった。

まず何より「犯人が序盤で死ぬ」というのが面白い。「責任取る前に逃げんなや」という苛立ちと、もはや乗客は彼のように死ぬしかないのではないかという虚無感が湧いてくる。予告からしてパニックホラーの類いだと予想していたので、予想を裏切られて面白かった。

そして地上と機内とでそれぞれに主人公がいるというのが良い。飛行機の異常がメインの作品となると地上側のシーンが退屈になってもおかしくないのに、刑事の兄貴がかなりの有能ムーブをかましてくれるのでどの場面も飽きなかった。間違いなくMVPである刑事が1番深傷を負っているのは辛かったが、最後に主人公2人が向き合うシーンは感慨深いものがあった。


ただ、勿体無いなと思う点もあった。
一つ目は最後の元大臣の発言で「元々分かり合えない考えの人間もいる」みたいな弁明。結構危うい考えなのではないかと思う。「矯正しようがない人間は排除するしかない」という極論に至れなくもないと思うので、そういった境界の引き方は引っ掛かった。ただサラッと流されてはいたのでそこまで気にならなかった。

二つ目は、緊迫感が削がれてしまっている点。生死がかかった決断が何度かあったが、「死んだら無念」というよりは「死んだらギャグ」になってしまっているのが勿体無い。

例えばウイルスが変異している可能性が提示されたシーン。
もし変異しているなら唯一の生き残りの人の「このウイルスで間違いありません!」が実は間違ってました...はギャグになるし、それを踏まえると刑事は自分で試した時に死ぬわけないので、そこで死なれたら「シンプルに体が弱かったのでは?」となってしまう。

着陸するか否かのシーンも惜しい。「着陸しないならどうするか」が示されていないので、そこで爆破させるのか燃料切れで墜落するのか海に沈めるのか何も分からず、どれにしても被害が出るのであまりにも無策で少し困ってしまった。

着陸シーンも惜しい。「あの時の決断は間違っていなかったと思うんだ」「僕もです」みたいな会話をした後に着陸ミスったら「でも今回の決断は間違ってました」っていうギャグになってしまう。

上記のようなギャグにはならないだろうから、という点で少し緊迫感が削がれてしまっている。言い換えれば生存するであろうという安心感があったわけだが。

しかしそれでもちゃんと緊張感が出ていたのは、一重に演出が上手かったからなのではなかろうか。

まるで乗客になったかのような音響やカメラワークは息が詰まったし、死を受け入れた乗客のビデオ通話などはグッときた。
緩急も上手く、盛り上げるべきところを登場人物の喜びようと音量でこうも表現できるのかと驚いたものだ。


余談だが、途中で亡くなったCAが血を吐かなかったのは何故なのだろうか。思えば亡くなった人物の中で女性だったのは彼女だけだし、流血しているのは男性のキャラクターだけだったはず。女優の流血シーンはNG的な決まりでもあったのだろうか?


余談はさておき。
所々にツッコミどころはあったが楽しめたし、最後まで緊張感を持って観られた。特に4Dなどがあったら最高に臨場感があって没入できそうだと思う。普通の上映ですら音圧で座席が揺れていたので、絶対すごいと言い切れる。
猫山

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