幽斎

MEMORY メモリーの幽斎のレビュー・感想・評価

MEMORY メモリー(2022年製作の映画)
4.2
恒例のシリーズ時系列
2003年 4.4 DE ZAAK ALZHEIMER 「ザ・ヒットマン」ベルギー映画
2022年 4.2 MEMORY 本作、リメイク

「007/カジノ・ロワイヤル」Martin Campbell監督とレビュー済「ブラックライト」Liam Neeson主演で記憶障害に苦しむ殺し屋を巡るクライム・スリラー。MOVIX京都で鑑賞。

※共演のイギリスの名脇役Ray Stevensonが日本公開直後の2023年5月21日イタリアのイスキア島で撮影中に緊急搬送され、58歳で帰らぬ人と為った。私も好きな俳優だったので謹んで御冥福をお祈りしたい。

オリジナル「ザ・ヒットマン」世界中の映画祭で絶賛されたアクション・スリラー。「アルツハイマー病」「標的は12歳の少女」プロットは本作にも受け継がれる。オリジナルのErik Van Looy監督と言えばベルギーの全国民が観たと言う不倫密室スリラーの傑作レビュー済「ロフト.」ハリウッドでリメイクされ日本の隣国もパクった。セクハラで追放Luc Besson監督「ヒットマン」因果関係は無いので御注意を。

「De Zaak Alzheimer」原作者Jef Geeraertsはベルギーを代表するミステリー作家。多くの受賞歴を持ち続編「HITMAN X. 復讐の掟」レビュー済「アンノウン・ボディーズ」秀作も多い。早い段階でリメイクが決定したが、権利を巡って10数年の時が流れた。問題はアルツハイマー病のアメリカでの複雑な医療制度。「テイキング・オブ・デボラ・ローガン」も有るが、富裕層しか効果の有る薬は買えない。故にGuy PearceとHarold Torres以外はアメリカ生まれの俳優が居ない。原作はオリジナル鑑賞時に読了済。

監督は007シリーズで大いなる名声を築いたが「グリーン・ランタン」ハリウッドの歴史に残る大惨敗の責任を負わされ「ザ・フォーリナー/復讐者」中国資本の映画まで零落れた。本作は久し振りのアメリカ映画だが、監督の良さは外連味のない職人らしい手堅い演出で決して脚本を超えた自分の「色」を出さない。主演Liam Neeson 6月7日が誕生日だから71歳!。私のフェイバリットは「ダークマン」。全てレビュー済「スノー・ロワイヤル」「ファイナル・プラン」「アイス・ロード」「マークスマン」「ブラックライト」オスカーに最も近い俳優がB級一直線の心意気に感服しながら、全て同じ作品に見えるが違うと言うニーソン・マジックは本作も健在。

原作はミステリーなのでアルツハイマー病に悩む老人の殺し屋と刑事との立場が交互に描かれ、同じ犯罪組織に絡む点が秀逸だが、原作の暗くて重いテーマを「リーサル・ウエポン」顔負けの銃撃戦も有るが、シリアスな演出に徹したスタイルは、流石ベルギー映画と絶賛された。ソレをNeeson が演じるが、ロボコップみたいに隠れず撃つシーンも有るけど、特筆したいのはアルツハイマーと言う余命のタイムリミット。アルツハイマーの為に傑作リバーサル・スリラー「メメント」の様に自分の身体にメモするシーンが有るが、だから選ばれた?Guy Pearce 55歳。監督繋がりで熟女ボンドガールMonica Bellucci 58歳!私の母親と変わんない(笑)。キャストも総じて平均年齢高め。

インタビューでNeeson は「ザ・ヒットマン」当然見たし自分の命を奪う病を抱えるヒットマンと言う設定にとても惹かれた。監督とも一度仕事をしたかったと。そりゃそうだ、007通の方は次の章へ飛んで欲しいが、007映画生みの親の娘で世界最高のプロデューサーBarbara Broccoliから直接「007/ゴールデンアイ」オファーを受けた。快諾するつもりが妻のNatasha Richardson(英国の大女優Vanessa Redgraveの娘)から「もしボンドをオファーされて、演じるなんて言うなら、結婚しませんからね」代役にPierce Brosnanが選ばれた。貴方ならどちらがお好き?(笑)。

Neesonがアルツハイマー病を「誇張しない」抑揚を抑えて演じる。アクションらしく後半に進むに連れペースも上がる筈だが、彼が事前のリサーチを怠る事無く、病に対するペーシングを阻害しない演技に徹した。レビュー済「ミッドナイト・キラー」Bruce Willis 68歳もアルツハイマーに勝てず失語症で俳優を引退。リメイクの障害と為る障碍も彼の演技で見事にフォローしたのは流石。気に為る点は加齢と認知の物忘れ症を混濁してるが、ソレに気付いた人を褒めるべきか。

本作には笑える要素がほゞ無い。組織から引退すると告げると「ダメに決まってんだろう!」速攻で拒否されるのはテンプレだが、プロットの2番目が少女売春組織と全く笑えず、アメリカでは10代女性の誘拐が多発、本作では移民保護を逆手に取る犯罪組織を辛辣に糾弾。G7議長国の御膝元も極めて危うく、日本のトー横問題も裏を返せば親の貧困の連鎖。性加害を暴露されたジャニーズも天罰覿面。悪人が死んでも責任は免れない。映画製作者も絶対死なないアホらしいドンパチ映画より、社会的テーマを描きたい本音も忘れてはいけない。本作は「必殺仕事人」ニーソン・ヴァージョンとも言える。

Steven Seagalの様に弾丸も当たらない無敵の男、と言う訳には今回はイカない。彼もインタビューの続きで「もう70歳なのに30や40歳のアクションを見せる事は逆に観客を騙す事に為る」アクションからの引退も仄めかす。思えば賞レース狙いの退屈な作品に出る事無く、此処まで観客を楽しませる出演に徹してくれた事に、我々は寧ろ感謝すべきだろう。本作は随所に「007」オマージュが隠されてるが、最大のレトリックが「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」(笑)。程良い南米テイストも心地よく、世間の評価は低いらしいが全く気に為らない。アラサーですが私も貴方も必ず老いを迎え確実に死ぬのだから。

「正義に保証は無いが悪には必ず勝つ」年輪を重ねた大人の劇渋アクション・スリラー。
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