木蘭

ザリガニの鳴くところの木蘭のレビュー・感想・評価

ザリガニの鳴くところ(2022年製作の映画)
4.6
 湿地の中で独り生きる少女の人生を描きながら、アメリカ人が大切にしている素朴な価値観が詰め込まれた美しいミステリー。

 法廷劇の形を借りながら描かれるのはヒロインの人生で、犯罪の犯人探しといった探偵物的要素は少ないが、伏線の貼り方は上手くて、こちらを上手に翻弄してくれる。
 貧困と家族の崩壊の中で独り取り残された少女がけなげに生きる姿に、もう序盤から目がウルウルしてしまい、彼女の人生を共有するうちに、いつしか魅入られ、彼女の無罪を願ってやまなくなってしまった。

 そんな彼女の前に現れる二人の男性も、彼女に魅了されて彼らなりに愛するのだが、それぞれの弱さゆえに彼女の心と体を傷つけてしまう姿は切ない・・・。
 その描写が丁寧な上、ヒロインが純粋だが強い人間なので、「ああ、もう!」とヤキモキさせるが、いやな後味にならないのが救い。

 あまりに汚いものは描写されないし、周りの人間に基本的に悪人がいないし、彼女に手を差し伸べようとする善人が多いので(弁護士先生も合衆国の良心に服を着せた様な人物。「学校に行くのは君の権利だ!」というシーンは感動したけどね)良くも悪くも重苦しい話になっていないのは、好みが分かれるところだろうか。

 "湿地の少女"と呼ばれ、町の人々からは疎まれ嫌悪され、獣人の様に差別されるが、そんな彼女に出会った男たちは皆魅了されていく・・・自然の中で孤独に生きながら、自然と一体となって、たぐいまれな観察眼と知識と生きる力を手に入れたヒロインは、まさしく魔女。
 だからあのラストシーンは、僕には感動的だったけどね。
木蘭

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