ぶみ

ザリガニの鳴くところのぶみのレビュー・感想・評価

ザリガニの鳴くところ(2022年製作の映画)
4.5
真相は、初恋の中に沈む。

ディーリア・オーエンズが上梓した同名小説を、オリヴィア・ニューマン監督、デイジー・エドガー=ジョーンズ主演により映像化したドラマ。
1969年、ノースカロライナ州の湿地帯で青年の変死体が発見され、容疑者として浮上した主人公の姿を描く。
原作は未読。
「ザリガニが鳴く」と言われる湿地帯で、一人生きる主人公カイアをジョーンズ、彼女の小さい頃からの友人テイトをテイラー・ジョン・スミス、亡くなった青年チェイスをハリス・ディキンソンが演じているほか、弁護士役でデヴィッド・ストラザーンが登場。
物語は、湿地帯で変死体が発見されるところからスタート、以降、容疑者とされたカイアの法廷シーンと、彼女の幼少期からの姿が描かれていき、徐々に時間軸が接近していくにつれ、事件の背景が明らかになっていく様は、ミステリの王道と言えるものであるとともに、カイアとテイト、チェイスの間で巻き起こる恋愛模様が丁寧に綴られており、ミステリよりも、そちらに重点が置かれている印象。
湿地帯を舞台としたミステリと言えば、バルタザール・コルマウクル監督『湿地』を始めとした陰鬱感溢れる北欧ミステリを思い出すが、本作品の湿地帯は、光り輝き、緑美しいという対照的なものであり、水と葉の香りがスクリーンから漂ってきそうなもの。
何より、本作品を観た日は、一日遠方に出張で、休む間もなく劇場に馳せ参じたため、正直寝落ち覚悟で行ったものの、冒頭から一気にその世界観に引き込まれ、寝落ちどころか、一言一句見落とすことなく完走できたのは、我ながら驚いたのと同時に、本作品の素晴らしさの証左。
60年代当時の空気感も見事に再現されており、緑美しい湿地帯を舞台とした社会派ミステリの面白さに加え、一人そこで自然と共生してきたカイアの生き様と、だからこその真相に魅了されるとともに、本作品のために書き下ろされたテイラー・スウィフトの歌声が、心の隅々まで沁み渡る秀作。

はるか遠く、ザリガニの鳴くところ。
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