とりん

ザリガニの鳴くところのとりんのレビュー・感想・評価

ザリガニの鳴くところ(2022年製作の映画)
4.3
2022年96本目(映画館48本目)

全世界で1,500万部を売り上げたディーリア・オーウェンズのベストセラー作品を実写映画化。
原作は未読だけれども、全体的に丁寧に描かれていて、2時間にうまく収めた作品という印象だった。
湿地という少し変わった舞台であり、だからこそ普段観ている作品たちと違い、少し不思議な雰囲気、世界観を感じることができる。
湿地のじめっとした雰囲気とかが観ていてすごく伝わるし、あの裁判も彼女を自分たちが第三者の視点から観てどう判断するかというのを求められているようにも感じた。
ある男の死の事件をめぐった裁判が中心となり、その被疑者とされた"湿地の女"と呼ばれているカイア、彼女の過去を紐解きながら物語が進んでいく。
この構成も非常によく、彼女という人物をしっかりと追うことができ、最初は関わりがないかと思っていた被害者の男性とも繋がりがあったりと、いろんなことが徐々に明らかになっていくので、どんどんと惹きつけられた。
彼女自身幼い頃に父から虐待を受けており、母や兄たちは自分を置いて家を出て行ってしまった。そんな辛い状況からも逃げださず、やがて父も出ていき、過酷な孤独の中でひとりで生きてきた。
そんな彼女が生き抜いていく姿もしっかり描かれていて、事件をおいておいても、彼女自身という人間を知っていくという意味でも面白い作品だった。
恋愛要素にも重きを置きながら、出逢いや別れ、裏切りなど様々なことがカイアに訪れ、それまでの彼女を見ているとすごく心苦しくなる。本当に彼女は人に恵まれてなかったのではと。
特に婚約までしたと思っていた、今回の事件の被害者でもあるチェイスは本当に被害者的な存在だったなと。本心では間違いなくカイアのことが好きなのに、街で特別扱いしてくる周囲とは違い、それを知らずありのままの自分で衣させてくれるカイアに対して居心地の良さを覚えていたからこそ、カイアからもらったネックレスを肌身離さずつけていた。それは彼にとって不釣り合いなものかもしれないがずっと身につけていた。だからこそ言い訳にはなるけれど、しっかりと話したかった。ただ彼にはきっと家のしがらみがくるストレスとヒステリックな要素があった。だからガイアにとっては父と重なる部分があって、生理的に受け付けなくなってしまった。ただそこでも彼女は逃げずにしっかりと立ち向かうことを選んだ。
そして勇気がなく外の世界を選んでしまったテイトに対して裏切りかと思っていたけれど、カイアが本当に愛していたのは彼だけ。ぎこちなくともそこに戻って仲睦まじくというのが本筋のエピソードではあるものの、あのラスト。予想できなくもないけれど、それまでの物語の流れや構成、演出があったからこそ活きるものだなと。いやぁ素晴らしかった、振り返ってみてもトラウマレベルかも。ゾッとした。
湿地の独特な雰囲気がしっかりと映し出されて映像の美しさに魅了されるし、そこにのる音楽もとても良かった。エンドロールで流れるTaylor Swift書き下ろしの新曲「Carolina」もすごく合っていて、最後まで世界観に浸れた。
原作がベストセラーということもあり、話的には期待はしていたけれど、やはり映像化となると少しハズれたりするかな考えてた。でも個人的にはすごく良作だった。最後の衝撃も含めて。原作も読んでみたい。
とりん

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