NaoMaru

ザリガニの鳴くところのNaoMaruのレビュー・感想・評価

ザリガニの鳴くところ(2022年製作の映画)
3.8
オリビア・ニューマン監督作品

父と娘は街から離れた湿地で暮らしていた。娘の名はカイア。偏屈で暴力をふるう父のせいで、母とふたりの姉、兄はすでに家を飛び出していた。やがて娘をおいて父も消えた。カイアはひとり孤独を噛み締めながら美しくそだつ。そんなおり、彼女を見染めたチェイスが事故とも事件ともつかない死を遂げた。彼女は街の人たちから“湿地の娘“と蔑まれ、当然のように犯人として疑われる…。

舞台の湿地は美しい夕陽と川面の揺らぎが目を見張る。湿地はつまづく彼女をいつも抱きしめてくれた。水鳥や昆虫、貝類に人間以上のシンパシーを感知していたカイア。それでも家族の誰かが戻ってくるだろうと待ち続けた。数少ない人間との交流では青年テイトと初恋に至り、こわばっていた心がほぐされた。が、彼の大学進学でふたりは疎遠になり、その後チェイスが現れて付き合う。

チェイスへの第一級殺人容疑を掛けられたカイアは、裁判所で陪審員の判決を受ける…。本当の結末は最後の最後におとずれる。法律を超えた自然(湿地)の摂理と言えばよいのか。本編で語られたカマキリの雌が思い浮かんだ。内気で純粋な彼女のイメージは崩れ去る。ミステリーと思われた物語は人間ドラマとして突き刺さり、背景にある男性中心社会の影響をえぐり出す。


◇あとがき
タイトルに疑問を感じませんでしたでしょうか。そう、ザリガニは鳴かないそうです。では、タイトルの意味するところはーーザリガニの声が聴こえるかもしれないほど、人間が訪れない“湿地”の奥深く、ではないのでしょうか。湿地は極めて美しい癒やしの場であり、善悪を超克した“生きる世界”なのです。
NaoMaru

NaoMaru