寝木裕和

ザリガニの鳴くところの寝木裕和のレビュー・感想・評価

ザリガニの鳴くところ(2022年製作の映画)
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物語の設定は面白いと思ったし、こういうプロットのサスペンスは最後まで飽きることなく観てしまう魅力があるのでその点は良かったのだが。

この作品に関しては最後のオチが釈然とせず、気持ちが萎えてしまった。

チェイスはあれだけの酷いことをしたのだから、殺されて当たり前… 。そんなパンチライン自体にも大いに引っかかるのだが、そのエクスキューズとして、「自然の中では善も悪もない」とか、「ときに自分を守るため、獲物が捕食者を襲うこともある」とか、自然の摂理の中ではこういう行為もたびたび起こり得るのだと言いたげであるけれど、個人的に思うのは、人間と獣や昆虫などは、違う。そこに一本、はっきりとした線があるはずだ。
その線を認めたとて、自然を愛してないわけでも、自然に対してリスペクトがないわけでもない。

そこのあたりの主人公カイヤの言い分が、彼女に感情移入できなくなってしまった大きな理由。

もしも主人公ではなく違う人間がチェイスを殺していたのだとしても、最後に語られるカイヤの言葉が彼女の心情であることに変わりはないので、件の引っかかりはどちらにしても残るだろう。

… 実は、この作品に関して、違うところで大いに興味を持った。

この映画の原作小説の作者、デリア・オーウェンズのことだ。

彼女の元夫や息子がなかなか きな臭い疑惑の持ち主で、どうもそのあたりが「ザリガニの〜」の中にも投影されているという話。

このあたりのことが作品のミステリー性よりも不気味で、まさに現実は小説より奇なりだ。
寝木裕和

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