小説も、映画化も気になっていた作品。
「湿地の娘」を巡る不穏なサスペンス劇。
彼女の暮らす湿地帯で、男の死体が発見された。
小説的なナレーションは、物語を縁取り、私たちを湿地の世界へと導く。
この湿地帯に潜む、見えない引力。
浮上する真実は何照らし出すのか。
以下、ネタバレを含みます。
まず、『ウィンド・リバー』を思い出した。特異な地形が絡むサスペンス。そして、背景と歴史が語られていく進行。
だから、本作は余計に物足りない印象であった。
圧倒的にリアリティに欠けるストーリー。
湿地の娘、カイアは、もはやこの湿地帯の一部であり、自然に生かし、生かされている存在であった。共生を超えた、それを無視できるほど一体となっていた。
「だから、この湿地帯から私を奪おうとする者がいるなら、当然、排除しますよ。」それが自然の掟であるから、カイアは遂行したのみの話で。
だから、本作はもっと、湿地帯の内部、その中に住んでいる人にしか見えない世界を、しっかりと描く必要があった。のに、本作で描写されていた世界観と言えば、私のような部外者でも想像できるような景色。そして、湿地帯の孕む暗澹さや悪意めいた物を反故にして、ただ表面だけを、光の当たっている部分だけを映しただけ。
湿地の娘は、一人で、この環境下で生きながらえてきたというリアルが微塵も感じられなかったことが残念であり、薄いラブロマンスへの転化も、興醒めしてしまう一つであった。
ヒューマンドラマとしても、ラブロマンスとしても、およそ根幹の裏表が描かれていないせいで、重みは一切感じられない。
最後に明かされるのは、カイアが真犯人だったかも知れないということ。
しかし、それは今更、この映画の本質として、何の結末にも成れていないようで、ただ残念である。