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ロストケアのABBAッキオのレビュー・感想・評価

ロストケア(2023年製作の映画)
3.8
 2023年前田哲監督、脚本龍居由佳里・前田哲。葉真中顕の原作を映画化。見るべきか迷いながらフィルマークスを読んでいる人には見に行くことをお勧め。自分的には手放しの絶賛ではないが十分に見る価値のある作品だった。献身的な介護をし続ける介護士・斯波宗典(松山ケンイチ)だが、実は多数の介護対象の老人を殺していた。ふとした事件から発覚し、大友検事(長澤まさみ)が取り調べる。自分は老人とその家族を救ったのだと主張する斯波と自分勝手な正義に過ぎないと切り捨てる大友の対決がメインの流れ。宣伝的には以上のような感じだろうが、内容的には松山とその父役の柄本明の演技がこの映画最大の見所だろう。長澤については正直脚本のためか人物の掘り下げがやや浅い印象だが、もちろん長澤の張りのある演技は水準以上。長澤の母役の藤田弓子も好演。
 「この社会では一度穴に落ちたらまず抜け出せない」という斯波の言葉は重く、大友の反論は「安全地帯からの言葉」として虚ろに響く。しかしこの社会の抱える矛盾の深さを描くにはややきれいすぎる印象で、特に最後に大友が斯波に面会し、告白するシーンはなぜ斯波に会いに行くのか、動機の説明が弱い気がした。それでも重要なテーマについて真摯に作られた映画であり、一人でも多くの人が見ることを期待したい。
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