うえびん

ロストケアのうえびんのレビュー・感想・評価

ロストケア(2023年製作の映画)
3.7
介護と悔悟

2023年 前田哲監督作品

殺人犯のシバ(松山ケンイチ)と検事のオオトモ(長澤まさみ)の事件を巡る攻防戦は見応えがあった。ずんのやすの演技、初めて見たけど気のいい人オーラがほとばしっていてよかった。坂井真紀との絡みも。綾戸智恵(ジャズシンガー)の演技も初めて。大阪のおばちゃん(おばあちゃん?)の雰囲気がばっちり。柄本明の演技も圧巻だった。

シバが殺人を始めたきっかけとなった事件、その被害者とシバの関係は理解もできるし、共感も湧いた。だけど、その他大勢の被害者に対して「殺人」ではなく「救い」だと言う彼の主張は、最後までまったく理解できないし、共感も湧かなかった。
  
彼は、「ロストケア」を「喪失の介護」と美化する。認知症により記憶力を喪失した高齢者と、日常生活の幸福感を喪失した家族への「救い」だと言うが…。その思考には大きな飛躍、欠落が感じられて仕方がなかった。

人格をもった人として描かれないその他大勢の高齢者(被害者)、彼らの喪失したものは何か。その家族、羽村さん(坂井美紀)と梅田さん(戸田菜穂)以外の家族が喪失したものは何か。個々の背景を丁寧に描写するのは無理だとしても、共通するものをもう少し見えるようにすることはできるんじゃないか、40以上の全てのケースに、シバの個人的な体験を投影するのは、あまりに無理筋じゃないかと思った。

生老病死。人は誰しも、生きて、老い、病んで、死ぬ。「救い」は天寿を全うするときに訪れる。リアルな介護の世界をよく見知っているので、本作には「救い」は感じられなかった。人の老いや死に際しての「救い」は『おくりびと』(滝田洋二監督)や『おみおくりの作法』(ウベルト・パゾリーニ監督)で感じられるようなものだと思う。

フィクションのサスペンス作品としてはよい作品だと思う。物語の最後の主人公・シバの姿に、自らの介護(殺人)に対する悔悟と共に生きていく彼の未来が浮かぶ。
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