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ロストケアのkojikojiのレビュー・感想・評価

ロストケア(2023年製作の映画)
3.9
No.1617 2023年 前田哲監督作品

 昨日に続いて、今日も昨年話題の社会派ドラマを観ることにした。

 この映画、どうしても、2016年のあの事件と重なってしまう。中にはあの事件がモデルと思っている人もいるのではないか?
原作は2013年の作品。この原作が出て3年後にあの事件は起きている。 

まず大事なこと。
あの事件の加害者と松山ケンイチが演じる斬波とは根本的に違う。結果だけ見ると何やら似ていると思ってしまうが、この映画が伝えたいのは「障害者はいらない、税金の無駄」とかそんな身勝手な単純な話ではない。
と、何やらこの映画のスタッフのような擁護をしているが、そう言いながら、どこかで「じゃあ何が違う?」と自問自答している自分もいる。

 どんなふうに加害者が考えていたとしても、結果として同じような事件が起きたと言うことは、どちらも同じ社会の歪みが産んだ事件ではないのか?主張がどうあろうと同じことではないのか?そう答えている自分もいる。

 ある早朝、民家で老人と訪問介護センター所長の死体が発見された。死んだ所長が勤める介護センターの介護士・斯波宗典(松山ケンイチ)が犯人として浮上するが、彼は介護家族からも慕われる心優しい青年だった。
検事の大友秀美(長澤まさみ)は、調べていくうちに、斯波が働く介護センターで老人の死亡率が異様に高いことを突き止める。
そしてついに、斯波は自分やったことは認める。しかし彼は自分がした行為は「殺人」ではなく「救い」であると主張するのだった。


 検事大友と犯人斬波の取調室におけるやり取りが何と言ってもこの映画の最大の見せ場。松山ケンイチの演技力に長澤まさみが引っ張られて素晴らしいシーンを作り上げている。見応え十分。これまでの役者人生で培った演技を互いにぶつけあうようなシーンだ。
 二人の主張に耳を傾けていると、いつしか自分の中に主張する二人が存在していることに気づく。果たして自分は、どちらの主張に偏るのか?

 斬波の父親役を柄本明が演じる。何故斬波がこう言う事件を起こすことになったのか。斬波と父親の最後のやり取りは、それを明らかにする重要なシーンなだけに、二人の迫真の演技に心が揺さぶられた。
 
 私は、両親を早くに亡くし、どこかで、自分は介護とは無縁だと思い込んでいた節がある。ところがそうこうしているうちに、いつしか自分が介護される立場で介護を考えなければならなくなってしまった。介護を現実的に考えざるを得ない年代に次第になっていく。それだけにこの映画は身に積まされる。

 斬波が言う、「社会には穴があって、その穴から落ちると、決して這い出せない。」
そうだと思う。自分には関係のない話だと思っていても、いつその穴に落ちてしまうかわからない。
まだ、穴には落ちていないが。

追伸
この映画はセリフがはっきり聞こえて気持ちがいい。今回、ネットフリックス一番期待の「バッドランズ」はすごく楽しみにしていたのに、何を言ってるか全く聞こえない。仕方なく字幕で観ようとしたが、あまりにセリフが聞こえないので、途中下車中。日本の監督さん達、もう少し音声に気をつけたらどうでしょう。同じ日本人が映画を観るのに、字幕が必要って、恥ずかしいと思いませんか?邦画はかなりお年寄りが観ていると言う事実を忘れてはいけませんよ。
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