ブラウンソースハンバーグ師匠

恋する惑星 4Kレストア版のブラウンソースハンバーグ師匠のレビュー・感想・評価

恋する惑星 4Kレストア版(1994年製作の映画)
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ウォンカーウァイが劇場にかかると、全席が真っ赤に染まり、補助席も染まり、その劇場にはフローラルな残り香が2、3日続くと言われている。
そんなピザ屋の彼女になってみたい世界と、毎日イースタンユースみたいな汗のかきかたをする世界が手を取り合えるはずもない。
と知りながらも、「嫌よ嫌よも好きのうち」と思い、学校の集合写真で言うところの右上に位置するような席を購入。受付のスタッフさんに
「あなたがwkwkwkw王家衛のwkwkwkw映画をwkwkwkw観られるとwkwkwkwお思い?wkwkwkw(←ウォンカーウァイ界隈で使われる「爆笑」のスラング)」
みたいなスタンスで来られるかと思ったけど、すごく丁寧だった。

結論、男性もいたのだけど、「あ、本当にウォンカーウァイ的恋愛をこなしてきたんだな」という、余裕のある身のこなししかおらず、開場までの間、それらをでかい主語で「男」と捉えつづけることに尽力した。

この映画は二部構成となっており、比重的にはポスターとかでよく見る方の二部に重みが掛かっている。一部はウォンカーウァイ世界における適性検査のように機能しており、この一部を「良き」と思えない時点で静かに退出しなければならないルールがある。俺は10分としないうちに中腰になりかけていたが、期限切れのパインの缶詰めを求める金城武と、絶版になった宮沢りえのサンタフェを求める俺の心情とがリンクして、検査を無事パスした。
でもやっぱり苦手だった。「ウォンカーウァイはコメディだから(笑)」と去年くらいまでは強がっていたけど、もうその力すらない。認めよう。ウォンカーウァイはちゃんとシリアスを描いている。
ただ、「苦手」と発するときに含まれる嘲りとは縁を切れたような気もして(それはだいたいにおいて村上春樹と呼ばれる作家に向けられるものと酷似している)、劇場を後にしたときには清々しさすらあった。

街にはウォンカーウァイ志望のカップルがいっぱいいた。腐るほどいたけど、夏のうちは大丈夫だ。体の水分が蒸発するから涙は出ない。