けんたろう

天使の涙 4Kレストア版のけんたろうのレビュー・感想・評価

天使の涙 4Kレストア版(1995年製作の映画)
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だが、金城武には余んまり近付きたくないおはなし。


時にゆつたり、時にせはしく。
センセエシヨナルな音楽と独特なカメラワアクと残像に富んだスロオ・モオシヨンとに依りて情感溢るゝ陶然たらしめし映像美と、一見して其れに相反するやうな高速なるカツトと、其れらがカツトの聯続せしテンポの良さとが有りうべからざる驚愕の融合を果たし、叙情的で美しくも然し脳裡に直接衝撃を喰らはしてくる、詰まるところ或る種の矛盾を孕んだ映像を仕立て上げてゐる。一言で表現しよう。訳が解らぬ。たゞ、其の常に変化しつゞくる一つひとつのカツトと其の構成には、恍然としながら胸が躍つてしまつた。

描き方同様、物語りにも亦た魅せられる。
生や死の、得も云はれぬ哀しみ。刹那を生くる男女の果敢なき恋情。然う生きざるを得なかつた男の決断。言葉足らずな父と息子の情。恋慕。浪漫。擦れ違ひ。果ては、物悲しさを帯びつゝも走りつゞくる──嗚呼、人生!

ドラスチツクで有りながらドラマチツク。ノワアルで有りながらノスタルジツク。可笑しさと切なさと格好よさとが入り混じり、興奮と寛ぎを同時に覚えしむる究極の一作。
王家衛め。たつた一発でフアンに成つちまつたぜ。