がぶりえる

ブエノスアイレス 4Kレストア版のがぶりえるのレビュー・感想・評価

3.9
よく分かんないけどなんか通じ合える人

ウォン・カーウァイの映像センスが今回も素晴らしい。何も起こってなくても、見てるだけで「いいなぁ」と思える何かがある。本当にこの人の作品は不思議。さらにウォンカーウァイの凄いところは、作品によって映像のテイストを少しずつ変えてくるところ。「天使の涙」は暗めで落ち着いた大人の雰囲気、「恋する惑星」ははつらつとした陽性の雰囲気、そして本作「ブエノスアイレス」は荒々しくてブルーな雰囲気。撮り方を毎回少しずつ変えて、似かよらないようにしているところが器用。でも音楽と白黒映像と電飾煌めく夜景への愛だけはずっと一貫して同じ。

キャラクターの行き当たりばったり感がいい。「一緒に居たいけど居たくない」みたいな矛盾した恋愛感情に振り回されまくる主人公がリアル。そもそも物語の始まりも「ブエノスアイレスで関係性をやり直そう」なのが結構めちゃくちゃで好き。「ここではない何処か」を探し求めてるんだけど、具体的な何かがあるわけではなくてただ無茶をしてるだけっていうのが、まさに若さゆえの無謀を象徴している。

そんな中で出会うチャン・チェンとの一期一会の出会いがまた良い。特別な何かを交わすとかじゃなくて、二人が「なんか通じ合えた感」があるのが良い。でも、2人の出会いが運命的なもののようにも感じられる。「友情」とかとはまた違った領域の、「あの時の自分にとって忘れられない人」みたいな。そいういう人って多分誰にでもいて、ある時ふと思い出して突然会いたくなったりする。だから、ラストのトニー・レオンの台詞は感覚的に分かる気がするし、自分の古い記憶の1番大切な所を刺激されたようで胸が熱くなる。