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花様年華 4Kレストア版のmayのネタバレレビュー・内容・結末

花様年華 4Kレストア版(2000年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

曖昧で実体のない煙草の煙はふたりの関係性みたいだ、ふわふわと形を為すことなく、ただその場所で浮遊しているだけ。お互いを愛してしまっているけれど、決して一線を越えることはしない。

お互いのパートナーの不倫に気づいたふたりは、お店でステーキを食べる。お互いのパートナーの好きなメニューを。
彼らの夫と妻はそこにいないのに、ステーキ肉(肉体の象徴)という代替物として、そこに存在していた。自らのパートナーの好きなメニューではなく、相手のパートナーの好きなメニューを食べる。ここですら、もはや自分のパートナーとの接触は禁忌になっていることが悲しい。愛が完全に失われている。
物を食べる「体内化」という行為がまた、不倫がテーマとなっているこの映画では、なんだか生々しく感じられた、

煙草の話にもどる、

どちらも、あともう一歩、が踏み出せないふたりは、すれ違ってしまう。チャウの部屋に残された、チャンの口紅のついた煙草の吸殻。2人の間には肉体関係はなかったし、煙草の煙のようにのちには消えてしまってなにもなかったようにみえるけれど、口紅の跡がくっきり残るように、2人の間にも残ったものはたしかにあるような気がしている。愛と、2人で作り上げた新聞小説の物語。それだけあれば、充分に、人生で最も美しい瞬間だったと、振り返ってみれば、そういえるのかもしれない、花様年華、という言葉の意味そのままに。

だけど、時はどんどん過ぎ去る。過去は触れることはできず、見えるだけだ。しかも、ガラス越しのように、不鮮明になっていく。穴に秘密を囁いて蓋をしてしまう、ふたりの秘密は一体何だったのだろう。
花様年華の時間に別れを告げて、彼は、これから、どのように生きていくのだろう、


2022.9.8 シネマート新宿
2023.6.22 Bunkamura le cinema 渋谷宮下
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