エビフライ

花様年華 4Kレストア版のエビフライのレビュー・感想・評価

花様年華 4Kレストア版(2000年製作の映画)
4.1
「今はお隣さんがどんな人かわからない。クワンさんとは家族同然だったのにね」
「みんな先を争うように出て行っちゃった」
「そこには過去の名残はなかった」
「埃のついたレンズ越しから覗くように過去は見れるけど、触れることはできない」
わかるわぁ~と思う。懐かしく、美しくみえる過去。多くの人が共感できると思うんだけど、本作では、とても美しくロマンチックで人魚姫の泡のように儚く、詩的で何か特別な物に見える。

前々からすごい名画な気がしていて、楽しみにずっととっていた作品(見ないで温めていた)。

恋する惑星が若いウォン・カーウァイの瑞々しい感性がスパークルしているなら、こちらはウォン・カーウァイ円熟期?初期より洗練されてきていると思う。ムードは抜群。香港が舞台なのにヨーロッパの映画を観ているよう。これはブエノスアイレスでも感じた。本作はブエノスアイレスの3年後に製作されたこともあって、より完成されてきていると感じた。1つ1つのカットが美しく、これは芸術であり美術。ふと映る花瓶でさえも趣がある。雨、屋台の湯気、たばこの煙など、空気の中に溶け込んでしまうものがこれでもかってほどに登場人物の心情を表している。

24年前の映画なのに全く色褪せていないどころか、60年代の香港、雨、屋台、主人公の住む家、それらの温度、質感を感じられる。まるで自分が60年代の香港にいるよう。ウォン・カーウァイが覚醒していたんだろうな、冴えに冴えていたんだろうなと思った。

あと、毎度のことながら音楽がやっぱり良い。チェロの曲もブンガワンソロも。背中越しに花様的年華が流れるシーンも良かった。この監督の作品の中では、ストーリーがわかりやすいと私は思うので、人にも勧めやすいと思う。
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