カラン

天国の門〈完全版〉のカランのレビュー・感想・評価

天国の門〈完全版〉(1980年製作の映画)
4.5
『ディア・ハンター』(1978)の次にマイケル・チミノが撮った作品。公開1週間で評価の低さに約150分に縮約されたようだ。1000万ドルの予算で始めたものの4400万ドルにまで製作費がかさんでいたこともあって、きっと会社側を焦らせたことだろう。いずれにせよ、映画が分からない人間たちが何かを決めようとすると、そういう結果になるであろう。哀しいことだが、メディアが抹殺した映画である。

違法移民が増加して社会問題になっていたらしい80年代に「そもそも自分らも同じ移民じゃないか」と呼びかけてしまうこの映画は、アメリカのコンプレックスに抵触して、評価を下げてしまう。しかも、人生観や価値観の共有でしか映画を受容できないようなアメリカの人々に、つまり自分があらかじめ知っているものしかスクリーンに見出さないような世間の人々に、「ジョンソン郡戦争」(1889〜1893)という、入植者たちの放牧の利権をめぐる実在の闘争に関わった人たちの実際の名前を使いながら、マイケル・チミノは史実とは異なる脚色を施した映画を提示したのであった。この脚色が、単に気に入らないというだけの話なのに、「阿呆の画廊」にならぶ他ない評論家やコラムニストたちが大騒ぎする大義名分を与えることになってしまったのではないだろうか。英語版のwikiを見ると「阿呆の画廊」軍団の呪いの言葉がどんなものか確認できる。

撮影はコッポラの『地獄の黙示録』(1979)の100万フィートを超えるフッテージとなった。撮り直しにつぐ撮り直しで、こだわりにこだわった。観てもらえば分かるが、『地獄の黙示録』と比べて、全てのショットが芸術的で、類例がない雄弁なロングショットが繰り返される。雲は運動の痕跡を示すかのようにせり出し、表情がある。どのロングショットにも中腹に雪を残す山々がからみ、非常にドラマチックで広大な映画空間を作り出している。音楽の愉しみを伝えるダイナミックなローラースケートの音楽家たちが、報われない恋人たちのロマンスを祝福する。

映画を謙虚に観るならば、究極の一本とは言わないが、断罪されるようなものではまったくない。3時間半であるが、ほとんど長さを感じない、どこをとっても美味しい映画である。おまけに分かりやすい。何の文句をつけるというのか。

レンタルDVDで219分版を視聴した。
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