ワンコ

警視庁捜査一課 ルーシー・ブラックマン事件のワンコのレビュー・感想・評価

4.8
【事件の複数の断面】

元捜査員が、これは日本最大の性犯罪だと言うが、もし、疑わしき200件を超えるケースが立証されたら、その通りだし、おそらく世界最大級かもしれないなんて思う(なんて事を書いていたら、ジャニー喜多川の性加害は数百人、場合によっては4桁になるそうなので驚愕だ!)。

だが、多くの女性は被害者として声をあげることはなく、立件されたのは亡くなられたルーシーさんとカリタさん絡みの約10件に過ぎず、犯人からの上告など経て無期懲役が確定した。

このドキュメンタリー「警視庁捜査一課 ルーシー・ブラックマン事件」が提示するのは事件の悍ましさだけではない。

上記のような女性が声をあげにくい日本の状況。これは現在も大きな変化があったとは言えない。伊藤詩織さんケースでは、自己責任だのいやらしい低脳な男目線のSNSでの誹謗中傷も多くあった。

キャバクラのママなのか経営者なのか、ホステスのリスクに対して、自分たちは常にプライドを持って顧客対応していると言うが、論点は異なるのではないのか。
リスクに対してどのように対応しているのか、ホステスの安全を確保する措置を講じているのか、不適切な客を招き入れているのではないのか、ここで語られている事件は氷山の一角に過ぎないことは多くの人の想像するところだ。

僕が働いていたアメリカやヨーロッパ企業の日本法人では、接待で、仮に自費で行なったとしても、キャバクラやクラブなどに行くことは解雇の対象になっている。

ジェンダーの問題があるからだ。男性の顧客を相手にするために女性が働くという構造は仮に売買春じゃなくてもモラリティに抵触するのだ。逆も同じだ。ホストクラブもダメだ。実際、それで解雇された人を何名か見てきた。

警察について言えば、ルーシーさんの関係者が指摘した有罪可能性の高いものに絞って立件していると思える警察の体制はずっと疑われているところだ。

これに対し身を粉にして奮闘する捜査員自体も、過去の捜査を否定してはいけないと言う不文律の中で苦悩している。

この作品の中で、実は、犯人がどんな人間なのか、過去や生い立ちを遡って為人(ひととなり)を明らかにしない。

立件された事件の数が、可能性のあるものに対して、決して多くはないことや、彼の人間性だけに絞って事件を語ると、多くのことを見誤るという意図もあるのではないだろうか。

最も重要なのは、本当は野放しにされるはずもない日本の夜の街のビジネスの警戒の対象でありながら、黙殺されていた状況こそ、女性にとって最大のリスクなのではないかということだ。
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