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シン・オブ・アメリカのotomisanのレビュー・感想・評価

シン・オブ・アメリカ(2021年製作の映画)
4.0
 保安官の皮を被った実は強請たかりの犯罪者で、のらくら者のくせに正義のかけらが支えであったりとブルース・ウィリスに求められる役は複雑怪奇だ。
 こんな男がNY市警ではうだつが上がらなくて、ではなんであの田舎町の表も裏も仕切る大物のメガネに叶って保安官でいるのか?どんな経緯があったかは如何せん大物ラトリッジがB・Wに仕留められてしまったのでもう分からない。

 ついでに一味の違法薬物製造販売団もクレー射撃以上の経験が無いせいかみんな死んでしまって、この事件は被疑者全員死亡をもってB・Wの証言だけで全ての事情が語られる運びとなるだろう。
 実はこの全員死亡という状況が、こののちの捜査と裁判に大きな影響を及ぼしてくる。そこで隠蔽されるのは、第一に、この事件の遠因である10年前のブリジット失踪の真相であり、第二に、その真相解明を求めて、当時ブリジットが関わりを持った麻薬王ラトリッジ一味の工場長キーツを人質に立て籠ったブリジットの妹弟恋人ら3人のラトリッジ一味の死亡との関わりである。
 そして、隠蔽の目的は、この事件を生き延びたブリジットの妹と恋人を逃がす事である。それは10年前の失踪事件の捜査不行き届きへの保安官なりの落とし前を付ける事でもあり、それを阻むラトリッジ一味を金輪際黙らせる事でもある。

 この十数年大事な金づるであったラトリッジだが、こちらが保安官をクビにされてしまえば彼奴めもこちらの尻尾を掴む厄介者に過ぎない。問題はこの町に来てからのラトリッジ絡みの薬物等事件のもみ消し諸般ではなく、そのもみ消し術を磨いたNY市警時代のあの「うだつを上げない」日々の裏の仕事についてである。
 例えば、中村主水のような男が警察の肩書を利用して暗殺も請け負えば、逃がし屋、事件の整理屋にもなるような事を想像すればよい。そんな小遣い稼ぎだか、自分の気の済むような事に事件を操作しながらうだつが上がってはどうなるものだろう?そして、そんな素性を知ればこそ悪党ラトリッジも地元警察に頼れるもみ消し屋が欲しくなる道理である。
 大儲けのラトリッジもこんな強え味方があったからクレー射撃程度で済んでしまったわけで、それが仇ともなって今や厄介払いされてしまう。しかし、それ以上に、たまには英雄に戻ってみるかとB・Wの気持ちに火をつけてしまったのが王の失墜の元である。

 と読み解くのが、まあ好意の寄せ処だろう。BWも病気の進行もあってかロートル役が板についた格好で、地でこなせる仕事じゃ退屈だな、なんて聞こえてきそうだ。だから、土壇場で総なめにして掻っ攫うのがなかなか悪党らしくて結構だ。
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