三隅炎雄

出世子守唄の三隅炎雄のレビュー・感想・評価

出世子守唄(1967年製作の映画)
4.0
千葉真一✕真田広之「浪曲子守唄」シリーズ三作目(最終作)。役名は同じだが、続きものだった前二作とは別の話、仕切り直しの物語になっている。前のは千葉ちゃんがムショで心を入れ替えたせいで至極ありきたりな任侠映画になってしまったけれど、これは千葉ちゃんがちゃんとダメ親父、しかも喜劇調で帰ってきて楽しい。真田少年は出番が大きく増えてほぼ千葉ちゃんとW主演状態で、ボケとツッコミいやボケとボケ、バディものといっていいくらいの名コンビとなった。
池田雄一脚本は、所謂マキノ・スタイルに倣った任侠物で、山で木を伐る労働者たちの生活と人情の機微を丁寧に書き込みながら、山間列車爆破阻止等、千葉ちゃん向きアクションシーンも挿んでみせて、なかなかサービス精神に溢れている。この出来の良い脚本に応えて、鷹森演出もオープニングの決闘から、いつもとは別の腰の座ったカット割りで力の入ったところを見せて調子が良い。真田少年パートが増えたことへの気遣いか、あまり画面が残酷にならないよう、最後の殴り込みが一切血の出ない、昔の明朗時代劇みたいな健全な殺陣になっているのも面白い。こういう処理を東映任侠で見たのは初めてだ。(封切時の併映は安藤昇の『懲役十八年 仮出獄』だから、作品単独の倫理判断だろう)

人情物に放り込まれたニヒルなハードボイルド侠客丹波哲郎好演、真田少年に手こずり人生を学ぶ姿もまた良し。老木こり沢彰謙絶品、山に救われ山に生きた老いの孤独と悲哀、この役で映画は忘れられないものとなった。逃げた女房酌婦小畠絹子、飯場の女三原葉子、厳しい生活のにおいと美しい佇まいにこころ打たれる。
三隅炎雄

三隅炎雄