しの

マルセル 靴をはいた小さな貝のしののレビュー・感想・評価

3.2
ストップモーション×モキュメンタリーの手法で、現実世界に2.5 cmの貝が当たり前のように生活しているように感じさせる映像表現が鮮烈。可愛いなと思って観ていたら、相手を撮影対象とすることによる権力関係や、それをシェアして消費する目線についてメタ的に切り込んできて虚をつかれた。

ネットにおける「共感(シェア)」の浅薄さについてはハッキリ描かれていて、『竜とそばかすの姫』などを思い出したが、本作はそれをキツい展開としては描かず、ほのぼのとした世界観の中でふっとその視点が挿入される感じで、むしろこちらの方が効果的のように思う。それはやはりモキュメンタリー手法のなかで提示されることによる効果も大きいだろう。「自分も一方的にこの作品を観てしまっている」という実感が湧くし、そこで抱いた共感を、「現実」におけるアクチュアルな行動や寄り添いに繋げられるのか? という問いも自ずと生まれるようになる。この作品自体に「現実」と「消費される現実」の2レイヤーがあるからだ。

とはいえ、その辺りのテーマをがっつり描くのではなく、あくまで撮影者と被写体がこのドキュメンタリーを通じて有効な関係性を築いていく……という筋に収束していく。その過程で「これ誰の視点?」みたいなカットが増えていき境界が曖昧になる作りも地味に手が込んでいる。

個人的には、ちょっとユーモアや語りのテンポが合わず、終盤までわりとかったるく感じてしまった(元々3分の短編だったものを劇場長編用に引き伸ばしているのもその理由かもしれない)のだが、変な生き物を日常のなかでリアルかつ魅力的に捉える技は特筆すべきものがあり、実写『リロ&スティッチ』の監督への抜擢もある意味で納得だった。
しの

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