Jun潤

マルセル 靴をはいた小さな貝のJun潤のレビュー・感想・評価

4.2
2023.07.05

ついにレビュー900本目!!

予告を見て気になった作品。
ドキュメンタリーだけど貝が主人公という既にパンチしか感じませんね。
こうした作品は「モキュメンタリー」というらしく、これまでにも観てきたジャンルでもあるので、期待値は十分。

インタビューを受けているのは小さな貝のマルセル。
彼ら貝は本来20人ほどのコミュニティで生活しているはずだったが、間借りしている家の主が出ていった際に仲間たちと逸れてしまい、マルセルは現在は祖母と二人で暮らしていた。
人間の道具や食料などを器用に使い、両親とも離れ離れの寂しさと闘いながら、日々を強く懸命に生きていた。
そんなマルセルの様子を撮影しながら話を聞き、編集した動画をネットにアップしている男性・ディーン。
ある日彼の作った動画がバズり、マルセルの家に野次馬たちが詰めかけるなど生活が一変してしまうが、マルセルは外の世界への憧れを抱き、両親たちとの再会を夢見て、冒険の旅へと出ることとなる。

また一人(?)新たな愛されキャラクターが生まれましたね。
これはぜひともシリーズ化して、長く愛されるキャラクターやストーリーを展開させて欲しいです。
単眼で足がついている貝なのに、マルセルのセリフや価値観、行動はもう観ていて愛らしいものでした。

人語を話す貝という完全にフィクションな存在なのに、ドラマが展開されているというよりは、貝が実際に生活している様子を人間が撮影し、その珍しさに集まってくる人々と、マルセルの貝、小さいモノなりの生き様を追うドキュメンタリー作品に仕上がっていましたね。
海外の人が最初に見た時の反応も気になりますが、日本人からしたら家の住人の知らないところで色んなものを借りて暮らしている様に『借り暮らしのアリエッティ』と似たような雰囲気があって、だいぶ馴染みやすいキャラクター造形になっていました。

そして貝のドラマと侮るなかれ、ちゃんと人間の社会生活にもリンクするようなメッセージ性が組み込まれていました。
マルセルの無知ゆえになんでもできるような自信に満ち溢れている様から、現実を目の当たりにして外の世界に恐怖を覚える様子など、マルセルと同じくらいの精神年齢の人たちだけでなく、日々を営み続ける人にも響きそうな感じがします。
パーティーそのものよりも、喧騒を遠くに感じながら静かな場所で休んでいる時が一番気が休まるというのはとても共感できました。
人間ではないキャラクターを描くことで、逆に人間をより明確に、より人間臭い様を描いてくれるのもまた王道ですし、貝から見た人間社会というのもエッジが効いているしコミカルだしで、考えさせられつつニヤニヤしてしまいましたね。
Jun潤

Jun潤