カルダモン

マルセル 靴をはいた小さな貝のカルダモンのレビュー・感想・評価

4.4
説明無く、いきなり貝へのインタビューシーンから始まる。
小さな体に大きなひとつ目、二本の足に可愛い靴も履いている貝のマルセルはAirbnbのレンタル住宅におばあちゃん貝のコニーと二人で暮らしている。とある事態により親兄弟やたくさんの仲間と生き別れてしまったけれど、家の中にある先住者が残した道具を駆使して生活をやりくりしている。そんな折、新たな入居者としてやってきたディーン(本作の監督・兼出演)と出会う。彼は映画監督であり、マルセルに密着したドキュメンタリー作品の素材を撮り始める。

この映画が興味深いのは、監督自身が演者となり貝のマルセルを題材にしたドキュメンタリーの撮影風景そのものを描いていること。メタ的なモキュメンタリーだというのも愉快だし、実写とコマ撮りアニメの異なるフレームレートが同居することで、映像的な気持ちよさも不思議な感覚だった。深読みすれば、本来交わらない者同士を同じ画面で融和させるためにあえて〈実写〉と〈コマ撮り〉を強調させているようにも思える。

子供のひとり遊びのように、無限に広がるイマジネーションを駆使して本来動かないししゃべらないであろうはずのものを動かす監督の視点を借りて、想像力豊かなミクロの世界に入り込んでいく。そこから見上げる小さな世界はなんと広いことか。靴の裏にハチミツを付けて、ペタペタと壁を登って行くの楽しい。

人と関わることの喜びや世界の広がりと、人に関わることで生じる軋轢。一軒家の部屋の隅の鉢植えで暮らす小さな貝が大海原よりも前に知ってしまった人間社会の波。それでも、違いがあっても、繋がる。プレッツェルだってクモの親子だって、みんなみんな生きているんだ友達なんだ。