Jun潤

ここ以外のどこかへのJun潤のレビュー・感想・評価

ここ以外のどこかへ(2021年製作の映画)
3.7
2022.06.29

Filmarksで見つけて即鑑賞を決めた作品。
最近そんな作品が多く、新しい発見もありつつなかなか大当たりまでには至らず…。
今度こそはと期待を込めて鑑賞です。

母親からコロナを理由に外出を禁止されている大学生のひかる。
過去のトラウマから母親に本音を言えず、外に出たい意志を伝えられずにいた。
一方、働きもせず毎日飲んだくれて知らない男を連れ込んでばかりいる母親に辟易としているみおな。
心の中では母親を求めているのに、それが叶うことはない。
ある夜、家出を決意したひかると、以前から度々夜の散歩に出掛けていたみおなが出会う。
親に対する想いは正反対ながら境遇が似ている2人は意気投合し、『ここ以外の何処かへ』と足を向ける。

う〜ん、これはいい会話劇。
以前レビューした『ベイビーわるきゅーれ』よろしく、“劇”と呼べるほど整ったものではないですが、悩める若者たちの心境を吐露する様子や、多少台詞を噛んでも本物感を優先してかそのまま使っていたりと、実在する少女2人の会話を聞いていたような鑑賞後感のよさ。

2人に共通している母親の愛情の欠如。
家以外に居場所を求めたひかると、家に居場所を求めたみおな。
大いに悩んで、気が済むまで歩いて、疲れちゃったらちょっとだけ休憩する。
人生の壁にぶつかった時、努力したり乗り越えたりするだけではなく、そうすることもまた大事な方法の一つ。
結果、ひかるは家に戻り、みおなは何処かへと旅立った。
しっかりと自分自身の人生に向き合えたのでしょうね。
きっとあの夜のことは2人とも忘れないのだと不思議と安心できます。

さて、ひかるが家に閉じ込められるきっかけの一つとなったコロナ禍。
未だ先行き不透明な情勢の中で、既に何作品もコロナ禍で生きる人々、生活が変わった人々を描いたものが出てきましたが、そうした作品群に触れていくうちに、自分の周囲の状況も含めて考えたことは、コロナ禍が現代の日本の生活を一変させた、のではなく、コロナ禍が潜在的な日本の問題を顕在化させた、の方が正しいのでは?ということ。
親の歪んだ愛情もそうだし、労働や行政、制度などの、長期的な非常事態が社会の本来の姿を浮かび上がらせたのでしょう。
そしてその姿は、これまでの対応を見れば明らかですが、おそらく今後も大きく変わることはないと思っています。
しかしそれでも人々の生活は変わり、人生の転機を迎えた人も少なくないはず。
環境や社会は変わらないけど、自分自身を変えていくことはできる。
そんな可能性の話を想起させるメッセージ性も、コロナ禍を扱った今作のような作品群には秘められているのだと思います。
Jun潤

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