アニマル泉

夜霧の恋⼈たち 4Kデジタルリマスター版のアニマル泉のレビュー・感想・評価

4.2
トリュフォーの「アントワーヌ・ドワネルの冒険」シリーズ第3作。アントワーヌがなかなか社会に適合できない話。トリュフォーはエピソードを淡々と積み上げていく。心情は飛ばして物語がドライに展開する。かなりラディカルな異色作になっている。

●アントワーヌ(ジャン=ピエール・レオ)が軍を除隊=クビになる。
●売春宿で女を買う。螺旋階段が印象的だ。女をチェンジする。
●恋人のクリスティーヌ(クロード・ジャド)の家に行く。クリスティーヌは不在だが両親に歓迎される。前作の「二十歳の恋」と同じだ。父(ダニエル・セガルディ)の紹介でホテルの夜間受付の仕事をする。
●クリスティーヌがホテルに会いに来る。ガラスごしのクリスティーヌが美しい。
●探偵アンリ(アリ・マックス)に嵌められて宿泊客の部屋を開けてしまい、妻の不倫現場に乗り込んだ夫が大暴れしてアントワーヌはクビになる。
●カフェでアンリに謝られる。外で別れる二人を扉のガラスごしで捉える、そのままアントワーヌがアンリに呼び寄せられて立ち話、会話は聞こえないがアンリに仕事を斡旋されているらしい、以上が見事なワンカットで描かれる。アルメンドロスの撮影は人物をフォローしながら「内と外」を自由自在に、緻密に、美しく行き来する。
●アントワーヌが探偵になる。尾行の修行。
●実はゲイである男の依頼で奇術師の素行調査をするアントワーヌ。尾行に失敗して外される。
●靴屋のタバール(ミシェル・ロンズデール)が
何故自分は嫌われるのか調べて欲しいと奇妙な依頼をして、アントワーヌが潜望鏡として靴屋に侵入する。アントワーヌがハシゴを登って靴の倉庫棚の空中に身体を浮かすショットがいい。直後にタバール夫人(デルフィーヌ・セイリグ)と電撃的に出会いアントワーヌは恋に落ちる。
●クリスティーヌとの喧嘩。「愛してるが崇拝してない」
●ゲイの男がブラディ探偵事務所長(アンドレ・ファルコン)から奇術師には妻子がいると報告を受けて激昂して暴れまくる。
●アントワーヌはタパール夫人と二人きりになり、動転して「はい、ムッシュー」と言ってしまい、恥ずかしさのあまり逃げ去る。アントワーヌが螺旋階段を一気に駆け下りる、駆け下りる。アントワーヌは走る姿がなんと言ってもいい。「礼儀か機転か」これは機転が聞いたシャレだ、というタバール夫人の手紙とネクタイがアントワーヌの自宅に届く。脱線するがアントワーヌはネクタイやスカーフがいつも素晴らしい。
●気送便(プヌマティク)でお別れの手紙を送るアントワーヌ。地下の管でパリ市内の手紙を速達で送るシステムが面白い。
●タバール夫人がアントワーヌの部屋に来る。二人が不倫する。
●別件でタバール夫人を尾行していた同僚の女探偵が「タバール夫人が遂に不倫した、相手は判らない」とブラディ所長に報告する。アントワーヌが所長と二人だけにして欲しいと言う。ここでカメラは所長室のアントワーヌと所長をオフにして、変装のカツラを確かめるおばさん探偵たち、電話するアンリを捉え、そこへオフでアントワーヌが不倫相手だと知った所長の叱責と解雇の声が響く、直後にアンリが突然死する、大騒ぎになる事務所。
●墓地、アンリの葬式が終わった一行、俯瞰ショットになり、アントワーヌが道で娼婦を買う。
●売春宿。螺旋階段。
●クリスティーヌの父が交通事故、相手はSOS社 でテレビ修理工を働いているアントワーヌ。
●クリスティーヌがわざとテレビを壊す。修理に来たアントワーヌ。二人が結ばれる。
●本作でたびたびクリスティーヌを尾行していた謎の男がクリスティーヌに好きだと一方的に告白して去る。唖然としてアントワーヌとクリスティーヌもその場を去る。

トリュフォーはエピソードを流れるようには繋がない。むしろ不器用に見える。それともこれが味なのか?ただ感じるのはトリュフォーはコメディーが下手なのではないだろうか?敬愛するルビッチやホークスのように笑えないのだ。艶笑劇にならない。どこか暗く、あるいは不謹慎になり、突き抜けた唖然さ、笑いにならない。そんな気がする。ゴダールが犯罪映画になり損ねるように、トリュフォーはコメディーになり損ねる。

アントワーヌが鏡に向かってとクリスティーヌとタバール夫人と自分の名前をひたすら連呼するショットが胸に刺さった。
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