アニマル泉

逃げ去る恋 4Kデジタルリマスター版のアニマル泉のレビュー・感想・評価

4.1
トリュフォーの「アントワーヌ・ドワネルの冒険」の第五作にして20年がかりの最終作。アントワーヌ(ジャン=ピエール・レオ)と3人の女たち、初恋のコレット(マリー=フランス・ピジェ)との再会、妻クリスティーヌ(クロード・ジャド)との離婚、現在の恋人サビーヌ(ドロテ)との恋模様が描かれる。
アントワーヌは印刷所の校正係をしている。恋人のサビーヌはレコードショップで働いている。かつて第二作の「アントワーヌとコレット」でアントワーヌはレコードメーカで働いていた。アントワーヌは相変わらず走っている。
トリュフォーは断片のエピソードを積み上げて作品を作る作家だ。心情や物語で引っ張っていく作家ではない。本作ではアントワーヌがコレットとのデートの約束を破る、クリスティーヌとの離婚、息子アルフォンス(ジュリアン・デュボワ)の見送り、コレットとの再会、列車、無賃乗車、急停止させて逃げる、コレットの恋人である本屋のグザヴィエ(ダニエル・メズギッシュ)はサビーヌの兄である、クリスティーヌとコレット、写真を渡す、アントワーヌと母の恋人リュシアン(ジュリアン・ベルトー)、母の墓地、アントワーヌとサビーヌの和解、が紡がれていく。
完結編らしく今までの作品が次々と回想されていく。20年の時間が本作の何よりの重みである。
クリスティーヌとの協議離婚の場面、アントワーヌが窓外をフッと見下ろすと、結婚式のカップルが車に乗り込む俯瞰ショットが挿入される。トリュフォーらしい俯瞰ショットだ。
コレットとの列車の場面はヒッチコックだ。
本作の基調色はクリスティーヌは青、サビーヌはピンク、コレットは白や黄色と峻別されている。
張り合わされた写真が次々と人の手に渡されて物語が進んでいく。
「アントワーヌ・ドワネルの冒険」の一連の作品ではツーショットが要となっている。並ぶ、見合う、距離を隔てて見合う、様々なバリエーションが見られた。本作の白眉は「鏡に並んで、鏡に映る相手に向かって語りかける」アントワーヌとサビーヌのツーショットだ。素晴らしいショットである。
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