くりふ

100人の子供たちが列車を待っているのくりふのレビュー・感想・評価

3.5
【子供たちは列車に乗れただろうか?】

再度フィルムでみておきたく、下高井戸シネマの上映、行きました。16mmフィルムを直にみる機会なんて、あと何回くらいあるだろう?

80年代末、ある女教師の貴重な活動を追ったドキュメンタリー。チリの映画、ということでまず貴重ですが、撮られる行為が面白い。この先生、寂れた町で子供を集め、真摯に映画を教えているんですね。

本作、描き方は素朴過ぎてそっけない、という印象はあります。が、映画を初めて見て、学ぶ、素朴な子供たちの背後にときおり覗く、軍政下という当時の情勢と、その影響が映り込むことを含めれば、やっぱり本作は貴重な記録だと思います。

集会所となっている礼拝堂で、マリア像?等がサッと片付けられ、祭壇がスクリーンに変わる、というフレキシブルな映画学校。そうだよね、神より映画だよね。

映画をみたことがありますか?という質問から始まって、その即席映画館で、リュミエール兄弟の『列車の到着』や、世界初のアニメと言われる『ファンタスマゴリア』が上映されます。(映画のタイトルは、『列車の到着』を楽しみに待つ、という意味)

幼い時に、まずここから入るってすごいなあ、と羨ましくなった。これと、『プリキュア』等から入るのと、どちらが「豊か」だろうか?

何にせよ子供たちは映画に没入し、スクリーンに引込まれていきます。ここチリには『ミツバチのささやき』のアナが、実在したのです!

その上で、ゾエトロープなどを自分の手で作り上げることで、なぜ映画が「動いて見える」かを実戦で学び、さらに「創作」へ移ります。描いて物語ることを学ぶわけですが、そこで選ぶモチーフが面白い。

ふつうに、ああやっぱり軍政下だ、という選び方をするわけですね。大人たちが生み出す軋みを、素直に受け取っているのでしょう。そんな子供たちの日々と表情を、淡々と映画は切り取り、終わります。

数多の反対派殺害、貧困層の増大、街ではデモが日常的に起こり、厳しい暮らしの中、廃品回収が日課でもあるような子供たちが、新しきを物語る、ことを学ぶのは、大切な糧になったろうと思います。

だから映画が終わってみると、この子たちは今どうしてるだろう?ということが、とても気になって来るのです。

本作の後に、チリの軍事政権は終わり、民政移管となりましたが、小さな映画学校で学んだことは、どんな実を結んだのだろう?

彼らの現在を追う続編がみたい、というのではなく、「卒業生」たちが、自主的に創りあげたモノやコトをぜひ見たい、と思ったのでありました。

<2013.4.18記>
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