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100人の子供たちが列車を待っているのsonozyのレビュー・感想・評価

4.0
サンディエゴの限界集落で、貧困で映画館に行ったことなどほとんどない約100人の子供たちのために、毎週土曜、礼拝堂を借りて映画ワークショップを行ったアリシア・ベガという女性教師と子供たちのドキュメンタリー。

スニーカーやノートなどの生活必需品を買うために、街で靴の修理をする少年や、ゴミから段ボールを集める少女。「大人になったら何になりたい?」という質問に、笑いながら兵隊という子供など、経済面、物質面、精神面で苦しんでいる、5歳〜12歳前後の子供たち。

アリシアさんは、そんな彼らの好奇心や創造性を育むべくこのワークショップを行ったようですが、彼女は、カトリック教会の司教会議の国立映画庁というところで働いていた方で、このプログラムの内容が素晴らしい。

ソーマトロープ、ゾートロープ、エジソンのキネトスコープといった映画が生まれる前の様々な技術を、簡単なキットで子供たちに実際に作って体験させることに始まり、一般には知られていない作品や、ある意味、過激な作品も含め、映画の歴史上重要と考えた作品を鑑賞させます。

その作品は調べたところ以下のようなもの。
・世界初のアニメーション『ファンタスゴマリー/Fantasmagorie(1908)』
・Disneyの予防接種の教育映画(実写+アニメ)『Defense Against Invasion(1946)』
・リュミエール兄弟による世界最初の実写映画の1つ、有名な『ラ・シオタ駅への列車の到着(1895)』は、公開された1895年12月28日の重要性と共に観せます。(本作のタイトルはこの作品つながりですね。)
・『チャップリンの勇敢/Easy Street(1917)』
・『チャップリンの移民/The Immigrant(1917)』
・『ミッキーの無人島漂流/The Castaway(1931)』
・『赤い風船/Le ballon rouge(1956)』
・『父 パードレ・パドローネ/Padre padrone (1977)』までも。

そして、映画のジャンル、プロット、フレーム、撮影方法などについても学ばせていくという、こんな貴重なワークショップ、体験してみたかったレベルの内容です。

そして、子供たちにドキュメンタリーを撮るとしたら主題は何にするか聞くと、「抗議活動」をあげた少年に多数が賛同。映画フィルムの1コマのイメージの紙に、各自がそのワンシーンを描き、それをフィルムのようにつないで、外の道を行進するというシーン。(ジャケ写はその行進に出る、被り物をした先頭の少年)
直前に、民主主義を求める抗議活動をする若者と彼らを殴る警官を捉えたドキュメンタリーを観せたことも影響したのでしょうが、子供たちが楽しそうに描くその「抗議活動」の絵に、彼らが置かれた劣悪な環境への怒りが現れているのが辛い。。

最後は、バスに乗って都会の映画館での映画鑑賞に向かう子供たち。
アリシアさんの素晴らしいワークショップを体験した彼らが、未来への列車に乗っていることを願う読後感でした。

英語字幕ですがこちらに
https://vimeo.com/621894490
https://archive.org/details/CienNiosEsperandoUnTren1988
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