える

リバー、流れないでよのえるのネタバレレビュー・内容・結末

リバー、流れないでよ(2023年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

いや、おもろ!

勘違いされがちだけど僕は別にB級ホラークソ映画しか直視できない身体に改造されてしまった改造人間ではない。むしろこのテの映画は大好物である。

観終わった後の多幸感というか、ほっこりとした穏やかな気持ちというか、サウナ好きがほざく「整う」なんかよりよっぽど健康的な感覚に包まれる。そんでその余韻をくるりの主題歌がバスローブのように保温してくれるおかげでより長く味わうことができる。

2分間を延々ループする、ということになっているが、エンドレスエイトではなく、登場人物はみんな記憶を引き継いでいるので、いわゆる"ループしている"というよりは2分1秒目が存在しない世界に永遠に閉じ込められるの方が正しい。

2分という時間設定も絶妙で、何かできるようで何もできない、何もできないようで何かできる絶妙なライン。

「私初期位置そこなんで」で映画館だったけど普通に笑ってしまった。これコントの賞レースでもキラーワードとして通用すると思う。ここは記憶を消してまた観たい

登場人物全員善い人で、みんな時が進んでほしくない事情を抱えているのだが、2分間のループの中で答えを見つけていく。「もし時間が2分でループしたら面白くないですか?旅館がパニックになって〜」っていうのを思いついたけどその後どう転がしたらいいかわからないのに適当に時間埋めて世に出しました、みたいなクソ映画をたくさん観てきただけに、本作は2分間のループという設定について、きちんと考えて練られているのがわかる。

撮影期間中に豪雪で撮影を中止せざるを得なくなって、撮影再開したらもう春だったという事情があったらしく、ループしているはずなのに雪が降ってたり降ってなかったり積もってたり積もってなかったり緑が急に青々としたり、時間の経過を感じさせてしまうものが山ほど映り込んでしまっているが、ループのたびに世界線が変わっているとかいうくっそ雑な言い訳で観客を丸めこもうとするのもご愛嬌。ヨーロッパ企画は舞台を主軸に活動されているらしく、急なトラブルでも咄嗟のアドリブで場をつなぐようなライブ感を映画の中でも感じることができた

そんで一件落着したかと思いきやもう一波乱。正直、「貴船の水神様オチ」で落としても良かったと思うが、急にタイムパトロールとタイムマシンとかいう突拍子も無いものが出てくる。タイムマシンに異常があったときタイムパラドックスが起きないように付近一帯を2分間でループさせる機能があったらしいが、それ以外の場所は普通に時間が進んでるのにその付近だけ2分間ループし続けたら時間が流れ出した際に2分間×繰り返した回数分現実世界から遅れることになって、タイムパラドックスが起こらないようにというかむしろ積極的に起こしにいってるような気がするがそれもご愛嬌

タイムパトロール役を友情出演で乃木坂のメンバーの方が演じられていたというのをエンドロールで知って、そのために付け焼き刃で無理矢理作った見せ場というかクダリなんじゃないかと勘繰ってしまうが、時間が流れないでくれと願ってしまっていた人達の前に未来人が現れて、未来も良いところですよと告げるのは時間を進めることを決意させる前向きな動機付けとしてうまいと思わされてしまった。そして未来人も遠距離恋愛でやきもきすることも、貴船の縁結びの神様を頼って来るところも、時は流れていっても人間の本質的な部分は変わらないんだよというメッセージとして見事に機能している。というか、ポスターとか見ただけのときもっとシリアスな話かと思ってたけど、めっちゃ甘酸っぱいラブコメだったのかよ

最後に、『リバー、流れないでよ』というタイトルの妙。要は時間と貴船川の流れをかけて、流れないでよというヒロインの願いを切り取った意味なのだが、『貴船川、流れないでよ』でもなく『川、流れないでよ』でもなく『リバー、流れないでよ』って…。マジでそのセンスに脱帽

ほんとに上質なストーリーと上質な演技と心地よい音楽と貴船の大自然の豊かさと、鑑賞後に心が満たされる作品だった
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