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リバー、流れないでよのRのネタバレレビュー・内容・結末

リバー、流れないでよ(2023年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

映画館で。

2023年の日本の作品。

監督は「ドロステのはてで僕ら」の山口淳太。

あらすじ

貴船の老舗料理旅館「ふじや」。仲居のミコト(藤谷理子「MIRRORLIAR FILMS Season2」)は別館裏の貴船川のほとりで佇んでいたところ、女将に呼ばれ仕事に戻る。しかし、2分後、なぜか再び貴船川のほとりで佇んでいるミコト。ミコトだけでなく、番頭(永野宗典「MIRRORLIAR FILMS Season2」)や女将キミ(本上まなみ「映画すみっコぐらし 青い月夜のまほうのコ」)、宿泊客もみな異変を感じる中、自分たちが2分間の時間軸を「ループ」していることを知ったミコトたちはループから脱出するため原因究明に挑むのだが…。

公開前から、ずっと気になっていて、公開したら絶対行こうとしたんだけど、千葉の片田舎ではなかなか近場でやっておらず、断念していたところ、近くのミニシアターで上映開始したので喜び勇んでようやく鑑賞!!

めちゃくちゃ面白かったです!!

お話はあらすじの通り、最近めちゃくちゃ増えた「ループ」ものではあるんだけど、例えばみんな大好きトム様主演のSF映画「オール・ユー・ニード・イズ・キル」やタイムリープ×ラブコメの近年の傑作「パーム・スプリングス」では「1日」昨年公開された「MONDAYS」ならば「1週間」とそれなりの時間の中で行われていた「ループ」が本作では、なんとわずか「2分間」。

2分間というと、本当ぼーとしてたら過ぎてしまうような、本当に僅かな時間なわけだが、その中で繰り広げられるてんやわんやがまず面白い。1回目のループでは主人公ミコトと番頭とのなんの変哲もない世間話をしながら、部屋の片付けをしていると時間が巻き戻って、「あれ?」と思って、また同じ道筋を辿るともうすでに番頭たちも「異変」を感じていて「デジャブ?」なんて話をしながら同じ行動、会話を不自然に思いながら繰り返すとまたループといった感じで「入り」からもう既にグッと引き込まれていくんだけど、そこから大体のルールをミコトたちが把握した後は「雑炊が食っても食ってもなくならない!」というかなりのどかな訴えをする宿泊客コンビを諌めたり、いまいちループというものをわかっていない小説家のオバタ(近藤芳正「クレイジークルーズ」)になんとか説明をしたりしてと…なんといってもループが2分だから少ない時間の中で「最短最適」な行動を余儀なくされて、ミコトたちが奮闘するパートが面白い。

特に途中「一回集まって作戦会議しよう!」ということになり、なぜかSFに詳しい理系の料理人エイジ(酒井善史「I AM JAM ピザの惑星危機一髪」)の元に集まろうとするんだけど、3階の大部屋に集まることになり、そこに行くまでにヘトヘトになったり、集まったはいいものの料理長(角田貴志「I AM JAM ピザの惑星危機一髪」)が「ループ」と「リープ」の違いがわからないと茶々を入れたことでタイムオーバー、また元に戻っちゃうところとかめちゃくちゃ歯痒すぎて、笑った!!

あと、そっから「3階ではなく、お互いが一番近い場所=正面玄関で会議しよう!」とそこで即座に会議が始まるといった、ループを通して段々と観客側が「ふじや」周辺のエリアマップがわかってくるので、まるで登場人物の1人になったような「一体感」を持って一緒に楽しめる部分も良かった。

そういう意味ではシチュエーションが京都の奥座敷として知られる冬の貴船の老舗旅館という点もめちゃくちゃ良くて、始まりから全編に渡るソフトフォーカスなカメラワークがまるで貴船という土地のイメージビデオみたいな新鮮な視覚の中で、そこを流れる貴船川ののどかな感じや舞台となる老舗旅館「ふじや」の風情溢れる感じなど、「タイムループ」というSFバリバリなジャンル映画に相反する「旅情」の感覚のギャップが面白く、かつ時間の制限も「2分間」なので極めて「コンパクト」で「ミニマム」なゴタゴタをシンプルに楽しめる作りとなっている、よくできてるなぁー。

そういう意味では映画としての面白さは溢れているんだけど、やはり制作が劇団「ヨーロッパ企画」だからか、シチュエーションの小ささや限られた場面の中で登場人物がてんやわんやする様が、どこか「演劇的」でもある。

で、その中で出てくる演者たちも、そのヨーロッパ企画の演劇俳優が多数を占めているんだけど、ヨーロッパ企画の演劇に疎い俺でも他の映画でよく見る永野宗典や石田剛太(「I AM JAM ピザの惑星危機一髪」)をはじめ、上述の藤谷理子、角田貴志、酒井善史、諏訪雅(「チコちゃんに叱られる!on STAGE そのとき歴史はチコッと動いた」)、中川春樹(「とべない風船」)などみんな流石に上手かったし、ヨーロッパ企画以外でもベテラン近藤芳正や本上まなみ、そして物語の鍵を握るキーパーソンに「乃木坂46」の久保史緒里(「探偵マリコの生涯で一番悲惨な日」)といった若手までバラエティ豊かでかつ芸達者な布陣て一人一人がちゃんと存在感があって良かった。

特に主人公のミコト役の藤谷理子。一見主役に見えないような感じではあるんだけど、特にその声が魅力的であり、段々とループを重ねることでスポットが当てられていく中でその存在感と巧みさを露わにする感じなんかすごく良かった。あと、その相手役となる料理人見習いのタク役の鳥越裕貴(「映画 文豪ストレイドッグス BEAST」)!出演作を見る限り、所謂「二次元俳優」としての出演が多いことからも分かる通り、男前なんだけど、やはり彼も声が良くて、加えて演技も普通に上手いので、俺自身知らないだけでこういう二次元俳優さんもめちゃくちゃ上手いんだなぁと再認識した。

で、その後もなんとかループを脱出するために奮闘する一同なんだけど、キモとなるのはループしても「記憶」は継続されるという点。しかも、ループに巻き込まれた人みんなそういう状態なので、だからこそ、ルールを把握した後はみんながすぐに行動に移せるんだけど、だからこそエイジが「経験はリセットされないので軽率な行動は控えよう!」と言った矢先の次のループで宿泊客コンビが揉めだして大喧嘩に発展したり、登場人物同士による滅多刺し事件が起きちゃったり、オバタが興味本位で飛び降り自殺しちゃったり、混乱した猟師(土佐和成「零落」)が自分を撃っちゃったりと割とバイオレンス方向に行ってしまう事態に…。

で、途中どうやら、その原因が当のミコトが地元神社の「縁結び」に「時間が先に進まないように」と祈ったことが原因と分かると、その祈った理由であるタクとの逃避行パート=ちょっとしたラブコメ展開になっていくなど、展開の移り変わりと共にジャンル的展開も変容していくので飽きさせない。ただ、それも、やはり「2分間」の時間軸の中で行われるという不思議笑。

ただ、物語の構造というのは不思議なもので2分間という断続的展開を重ねていくと段々と観ているこちら側も「酔ってくる」というか、頭がパニックになっていって、こちらまで気が狂いそうになっていくだよね。面白いは面白いんだけど、「これはいつ終わるんだ」と。あと、個人的に滅多刺しという、結構あっさりスルーされちゃったけど、とんでもない事態にまで発展しちゃったことにショックを受けちゃったというのもあったり、途中のミコトとタクの2分間の逃避行パートもそれまでのみんなの連帯感のテンポを一旦損なう感じにも乗り切れなかったりと、同じ邦画タイムループものだと今作よりも昨年の「MONDAYS」の方が個人的には好きかな。

あと、ヨーロッパ企画の面々のいかにも演劇的なセリフ運びが達者過ぎて、ちょっと鼻につく感じもあったなー、みんな上手いんだけど。

ただ、それでも本当の要因がミコトの縁結びとは別のところで起こっていた!と唐突にSFど直球の展開になった後のエイジ主導による、それぞれが力を合わせて、巧みなチームワークによって解決に向かう展開の心地よさだったり、その後の大団円ノリも良かった。加えて、「今」の時間を大切にしたいミコトと「未来」に向かおうとするタクとのラストにかける関係性の「切ない」終わり方もめちゃくちゃ良かったなぁ。

という感じで、なるほど確かに公開からかなり経っているのに、未だに客足が途絶えない理由も納得のめちゃくちゃ面白い作品だった。まだ観ていない人は昨年の「MONDAYS」と合わせて見比べて観ても面白いかもしれないです!
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