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クラッシュ 真実の愛のRenのレビュー・感想・評価

クラッシュ 真実の愛(2022年製作の映画)
2.5
クィアのコミュニティを描いた学園ものを、現実でも自身の性的指向に関して明言している俳優を起用して成立させたのが誠実で素晴らしい。ただ、歴史には残らないと思ってしまった。

ゲイもヘテロも関係無く、そこにあるのは「恋の不安定さ/尊さ」であり、そういう普遍的な心の揺らぎにのみフォーカスを当て続けるのが新たに作られるべき青春コメディとして意味がある。好きな人が振り向けば嬉しいし、離れたら寂しい。ティーンの恋愛の根本にあるものを直球で受け取れる。

アートも恋愛も、人と比べるものではなく自分自身と向き合うことで打開するものだという至極シンプルで真っ直ぐなメッセージ。今作でペイジが追いかける匿名アーティストは誰が言わずともモロにバンクシーのオマージュ。追えども正体は掴めない存在。

所謂ヒールのいない青春映画として、とことんカラッとした質感になっており前述のような「愛」の話に集中できるので◎。これ自体がかなり理想論ではあるのだけど、もやはスクールカーストという概念自体がだんだんと薄れてきているフェーズに入っては来ているだろうし、やっぱりこういう世界の話が見たいなと思える。

ただこのテの青春映画は完全に『ブックスマート ~』が礎を築きあげた感があり、その後続ものとして見てしまうのは仕方ない。「クィアのコミュニティの優しい話」というだけでは歴史には残りづらく、そこに物語としての面白みが乗っかることで名作となるのだと考えたときに、正直物足りなさのある作品ではあった。作られた意義はもちろんあるのだけど。

『アデル、ブルーは熱い色』なども、従来ヘテロセクシュアルが主だったあるある恋愛映画をレズビアンを主役にしたことで金字塔となった作品だと思うが、あれはあの映画ならではの映像美や心情(台詞)の表現が相まったからこそ。
『クラッシュ 真実の愛』にそういった革新的/代表的/発明的表現はあまり見られず、高評価の一歩手前で留まってしまった感じがすごく惜しい....!

あと陸上部にかれこれ10年ほど所属していた身から言わせてもらうと、陸上競技への解像度が低くて、それでいいの?とも思ってしまった。スニーカーでトラックに入るな。バトンパスで後ろを向くな。どういう本気度のコミュニティなのか分からないのは、作品のリアリティを左右してしまうのでわりと致命的では(アメリカの部活動の温度感を知らないのでこの指摘自体がズレている可能性もあり)。
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