ジェイコブ

哭悲/The Sadnessのジェイコブのネタバレレビュー・内容・結末

哭悲/The Sadness(2021年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

台湾で同棲中のカップルであるカイティンとジュンジョー。忙しさからすれ違う事もあるが、仲睦まじく幸せな日々を過ごしていた。一方、世の中では世界全体に蔓延する謎のウィルス「アルヴィン」が猛威を振るっていた。アルヴィンは感染力は強いものの、軽微な風邪のような症状に過ぎず死者も出ていなかった事から!人々は深刻に捉えず、政府は政治のことばかりに躍起になっていた。ある日、ジュンジョーはカイティンを駅まで送り届け、行きつけのカフェに立ち寄ったところ、目が充血した異様な外見の老婆が客や店員を襲っている場面に出くわす。老婆に襲われた人々も次々に凶暴化し始め、ジュンジョーに向かってくる。慌てて逃げ出したジュンジョーの目に飛び込んできたのは、街中で暴徒化した人々によって行われる殺戮であった……。
台湾発のパニックホラー映画。監督は本作が初の長編映画監督となるカナダ出身のロブ・ジャバズ。辛口映画レビューサイトロッテントマトでも高い評価を得ていることで話題の作品。アイアムアヒーローや、新感線を彷彿とさせるような走るタイプの感染者との手に汗握る攻防が見所。
本作を「ゾンビ」映画とするかどうかについては議論の余地があると思う。突然変異したアルヴィンウィルスによって凶暴化した人達が周りの人達を襲い始め、正常な人も噛まれたり唾液を浴びたりすれば感染して人を襲うようになる…ここまでは巷にあふれるゾンビ映画によく有りがちで使い古されたと言っても過言ではない設定だろう。だが、本作の感染者は歩く死者とされる従来のゾンビとは異なり、言葉を話せば武器も使うし、形成が悪くなれば一旦退散するような知能を備えている。ウィルスの研究者が話した、彼らは自らがやっている事の残忍性を理解しており、罪悪感から無意識的に涙を流すと言っている。自らの欲望に抗えずに残虐行為を行う感染者を果たして死者であるゾンビと同等にするかどうかで、本作の見方も変わってくるように思う。
ホラー愛好家である監督のゾンビ映画愛や、規制が厳しくなるばかりの映画業界に一石を投じるかの如く、てんこ盛りなゴア描写が見られる作品。ホラー映画ファンであればたまらないシーンの数々には、アジアのゾンビ系ホラーで不動の人気を誇る韓国の「新感線」という風潮に楔を打ち込むかのようなパワフルさも感じられた。
欲をいえば、クライマックスにかけての山場がもっと欲しかった。ハラスメント親父Lv100のオッサンにしろ、最後の最後に感染してしまったジュンジョーにしろ、たやすく倒されてしまったのが非常にもったいない。また、肝心のジュンジョー(感染済み)とカイティンの再会もあっさり終わってしまい、イマイチ絆や葛藤を感じづらかったのも残念な所。
本作のアルヴィンウィルスは新型コロナウィルスと酷似しており、ウィルス対策よりも政治に重きをおく政府への批判など、社会風刺が根底にあるのも面白い。韓国、中国、日本にも引けを取らない台湾映画に今後も期待したいと思えた作品。