深獣九

哭悲/The Sadnessの深獣九のネタバレレビュー・内容・結末

哭悲/The Sadness(2021年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

敬愛する配信者さまのおっしゃっていたとおり、監督をはじめとする製作スタッフの情熱が真っ赤な血しぶきとともに降り注ぐ、そんな映画であった。
つまり最高。

ストーリーはない。展開も「あ、ホンマにそうなるんや」とツッコミ入れるほど素直。安心して殺戮を楽しむことができる。

殺り方はバラエティに富んでいる。轢殺、刺殺(めった刺し)、むしゃぶりついて頸動脈引き千切り、傘で一突き、斧、消火器、殴打(トスバッティング)、爆死(顔バーン)、医療用丸鋸などなど。
手加減や容赦は一再ない。なぜならウィルスのせいで欲望が溢れ出てるから。清々しい。
欲望を充たしてるからみんな笑顔で楽しそう。噂には聞いていたが、それはやはり不気味で恐ろしい。人間としての意識はあるから、本人もその行為を恐怖し後悔している。だから涙を流す。いい演出。その部分をもっと強調し、泣いたり笑ったり激しい葛藤の様があっても良かったのではないか。惜しい。

やはり主役の座をさらったのは、金色ネクタイのバーコードおじさんであろう。まずはキャスティングが最高。ネットリと絡みつく視線、口の中に唾液が溜まっているような喋り方、カサカサなのに脂ぎった肌、バーコード頭、とまったく隙がない。着こなしがきちんとしてるのも高得点。オシャレな傘も身につけている。自分はイケてると、女にモテると思っているのだろうな。完璧な設定だ。
この人、この役をやるために役者を続けてきたと言っても過言ではない。ううん、ない。よくぞオーディションに来てくださった。スタッフもよくぞ採用してくれた。感謝しかない。

さらになにがすごいかって、このオジサンの一歩手前がまさに私なのである。きれいな女性がいたらジロジロ見るし、本を開いていればなに読んでるのかナーと盗み見。今日も映画館であやうく隣の女性に声をかけてしまうところだった。危険だ。だがこのような映画をひとりで観に来てる方なら、鑑賞後賛辞を交わす相手が欲しいのではあるまいか? 私は欲しい。私と同様、いっしょに観に来るリアル友だちはいないのでは? 同胞よ、ならば私が……と考えるのはいたって自然であろう。まあ、踏みとどまったのだがよかったのだろうか……。

閉じ込められたバーコードおじさんが、シャッターの覗き窓から舌をペロペロペローって出すところ、この夏のキモい大賞を総ナメすること間違いない。ペロペロだけに。
「もう少しでイギぞうだっだのに゛ぃ〜」とうめくおじさんもヤバかったな。登場するおじさんだいたいヤバいな。

ご承知の通り、散りばめられたホラー映画オマージュも見どころ。私は『バーニング』『シャイニング』『グリーン・インフェルノ』『スキャナーズ』くらいしかわからなかったが、それでもニヤニヤしてしまった。玄人の皆さまはもっと楽しめるであろう。勉強不足を恥じる。

殺レる相手がいなくなって欲望のはけ口を血まみれ4Pに向けたり、眼窩ファックなどアダルト方面への配慮もあり好感が持てた。

救いのない結末は意外だったが私好み。
このレベルのバイオハザードが生じたら世界が滅亡する、とはツッコミどころ。だが舞台は台湾という海に囲まれた地なので、封じ込められる確率は高い。よく考えられてる。

私的2022年夏納涼映画祭の第一弾だったわけだが、総じてレベルは高かった。そして大きなスクリーンでめいっぱい血を浴びるのはいいものだ。大満足。ロブ・ジャバズ監督には、今後もこの手の作品を量産していただけるよう切に願う。

実は私も目の黒い部分が大きくて、すぐ涙や涎がたれるのだが、感染しているのであろうか。年齢のせいなのか。どちらにしても残念である。
深獣九

深獣九