いわし亭Momo之助

哭悲/The Sadnessのいわし亭Momo之助のネタバレレビュー・内容・結末

哭悲/The Sadness(2021年製作の映画)
2.9

このレビューはネタバレを含みます

舞台は 謎の感染症に長い間対処し続けてきた台湾

専門家たちに “ アルヴィン ” と名付けられたウイルスは 軽微な風邪のような症状しか伴わず 不自由な生活に不満を持つ人々の警戒は いつしか緩んでしまっていた という設定はまさに シン・新型肺炎 全盛の日本を髣髴させて ◎

大脳辺縁系と呼ばれる「原始的な脳」は 理性の介在しない生存本能に基づく動物としての機能を司っている。ある日 突然変異したウイルスが この大脳辺縁系に作用し 感染者たちは 無差別大量殺人や拷問やありとあらゆる残虐行為をやりまくる。
この流れも ムチャブリとは言え ~後半で 基地外ドクターがそれらしく説明するが 面倒くさいだけで そもそもこのドクター メチャ うざい~ まぁ 良い。なんてったって この作品 ただただ ゴアがやりたいだけなんだから。映画の歴史とは 人体破壊表現の歴史 という言説に いわし亭は 大いに共感しており 人体破壊表現こそが お金を払ってでも見るべき映像表現 ひいてはエンタテインメントの極北だと確信している。
ただ それだけなら 偉大なる先達 ハーシェル・ゴードン・ルイスがいる。この作品は 脚本が ちんたらしていて イライラさせられるし 前半の山場である満員電車のシーンも 何やってんだ みたいな乗客がやたらいるし 感染者同志は協力し合う みたいな妙なところもあり ~もちろんお互いに殺しあうシーンも多々あるが 非感染者へは協力して襲ってくる(笑)~ しかも 感染者は マッハで走り 腕っぷしが異常に強く 凶器の使い方がプロ並みで 少々のケガでは挫けず 閉まったドアなどもブチ壊しまくって向かってくるわけで ことごとく超人化している(爆)んだから ゾンビの様に 咬まれた(感染した)被害者が 死んでから怪物化する というわけでもないので 逆に是非 “ アルヴィン ”に 罹患してみたいものだと思う(爆)
そもそも 主演のレジーナ・レイのキャラクターが 実に鬱陶しい嫌な女なのだ。後半 大活躍のリーマン禿げ親父が 電車で隣に座った彼女に対して吐く毒まみれの中傷や渡辺直美にしか見えない太め女子に顔面パンチを食らって 鼻を折られる小心者の小男の彼女に対するイラつきも(スマホ 返せぇ~!!) 確かに よく分かる気がする。
彼女の彼氏が 彼女が避難したと思われる病院まで 無事たどりつけるのか? という王の帰還的オデッセイアな展開が ドラマとしては そそられるのだが もうヒト捻りあっても良かった かなぁと思う。結局 ゴアが目的化し過ぎている分 映画としての魅力に乏しいことは否めない。
突き詰めたゴア表現は 最終的にナンセンスギャグに突き抜けるのであり それならばピーター・ジャクソン監督の『ブレインデッド』の域まで 振り切ってほしかった。結局 以降のジャクソン監督は『ロード オブ ザ リング』の大巨匠になっちゃったわけで 何においても 突き抜けることは 重要だ。
感染症がどんなに蔓延しても 人類の25%は先天的に免疫を持っており 生き残ると言われている。ヒロインはその25%の人で リーマン禿げ親父をブチ殺して 大量の返り血を浴びるが “ アルヴィン ” には罹患しない。その後 基地外ドクターに “ アルヴィン ” そのものを注射されもするが それでも発症しない。ヒロインは感染者の群れを振り切って 救助隊の待つ ヘリポートのある病院の屋上につながるドアから 外に出ていくところで幕。その後 ジョージ・A・ロメロ監督の『ナイト オブ ザ リヴィングデッド』を髣髴させる結末が待っているのは お約束か。
物語の冒頭で 薄気味悪いババアの感染者が 屋上に佇んでいるショットなどは なかなかに不吉な予感を煽るもので どんよりした灰色の空の下 実に雰囲気があって 良い。このシーン ポスターにもなっている。欲しい!