ひすとりあ

島守の塔のひすとりあのレビュー・感想・評価

島守の塔(2022年製作の映画)
3.6
凄惨を極めた沖縄戦において、軍でも民でもなく、行政としての立場を貫きとおした沖縄県知事・島田叡(兵庫県出身)と沖縄警察部長・荒井退造(栃木県出身)の姿を、県庁職員の女性の視点も織り交ぜて描いた物語。
とにかく五十嵐監督の、これらの人物、この物語を通して伝えたいメッセージが強く熱く、でもおしきせがましいことなくしっかりと籠められています。
また、演者の方々の好演も光りました。
私は島田役の萩原聖人さんの、明朗にやろうのシーン、現地の方々との交流のシーン、軍司令部に物申すシーンに胸打たれました。
島田の魂が宿っているような感じさえしました。
沖縄返還50周年、ウクライナ侵攻、元首相遭難など印象深い出来事が続く激動の昨今だからこそ、多くの方に見てもらいたい映画のように思います。

だからこそですが、気になることがあったのも確か。
ガマでのシーンでは、6月の沖縄なのに(しかも原案の著作では「ガマの中は蒸し暑く……」とあったように記憶)演者の吐く息が白い。
荒井部長は赤痢におかされてからそれまでのような溌剌とした行動ができなくなってしまうけど、そのへんの経緯もなくて、逃避行の結果単に疲弊してしまったように受け取れるのがやや説明不足のように見えました。
また、レビューの中には、戦争の描写がリアルすぎて辛いというような書き込みも見受けられましたが、沖縄戦は「鉄の暴風」「ありったけの地獄を集めた」と表現されるほどの阿鼻叫喚の戦場になったわけで、原案の著作や沖縄戦経験者の証言などの中にはもっと悲惨な描写が多々見られます。
あれ以上ひどくしろというわけではもちろんありませんが、折り重なるでもなくぽつんぽつんと置かれた五体満足のご遺体ばかりで、原案の著作を読んだ身としては、「こんな程度ではすまなかった」と少しモヤモヤが残りました。
これを観て沖縄戦に関心を持たれた方がいらっしゃったら、ぜひ書籍や証言、平和祈念資料館の資料などをつぶさにご覧になることをおすすめします。

ひすとりあさんの鑑賞した映画