A24作品。
美術学校で教えている彫刻家のリジーは、来る個展に向けて追い込みの日々を送っている。ただでさえ満足に作品が仕上がっていないのに、隣に暮らす自由な芸術家のジョーや(借りている部屋の貸主でもある)、家族の問題でリズムも狂わされっぱなしで……。
ポートランドの独特?の雰囲気というか、美大系ピープルの生態というか、そういうものをスクリーンいっぱいに充満させつつ、どうにもすっきりしない日々を過ごしている主人公の心理状態をけっこう丁寧に描いた作品。といっても、あまり暗くない。どこかとぼけた匂いがあって、平和。ちょっと不思議な作品だった。
隣に住むジョーは、神経質で控えめ(要は地味)な主人公リジーとは正反対の自由で快活なタイプで、そもそも金持ちっぽい上に芸術家としてもイケイケな感じ。無邪気なんだかマウントなんだかわからない言動でリジーをイラつかせるし、家の設備故障を直してくれといっているのに全然対応してくれない(ジョーはリジーの家のオーナーでもある)。さらには、リジーの作品を焼いてくれる窯担当の男性(イケてる)を連れ込んだりもしていて、とにかくリジーとしてはいちいち引っかかる存在なわけだ。
ある日、リジーの家にいる猫が傷つけた鳩を、ジョーが拾って「助ける」とか言い出したものだから厄介な展開に。助けると言いながら無責任なジョーに代わって、けっこうな時間リジーがやきもきしながら鳩の世話をすることになったりして、余計にジョーとの間に変な空気が流れることに。
さらには、芸術的才能があるけれど心を壊した兄弟に振り回されたり、頼りなくて他人に利用されている父親や、どうにも家族やリジーに無関心な母親(美術学校の偉い人でもある)、創作中に構わず餌を要求する飼い猫などに始終気を取られながら、リジーは個展まで時間がないと焦りを募らせていくことになる。
いかにも芸術家然としていて実力も認められているジョーや、明らかに天才だと思われていた兄弟とは違って、一見すると芸術家っぽくない上に、いかにも芸術家らしい奔放さもなければ社交性も持ち合わせていないリジー。人よりも責任感が強いので、必要以上にいろいろなことが気になってしまって、ペースを乱されまくりな彼女の困り顔にイラつきもするし、だんだん愛おしくもなってくる。
リジー自身は「自分は認められてもいないし、芸術家らしくもないし、成功する予感もしない」と思っているらしいが、もちろん芸術家が皆ジョーのようなタイプなわけでもない。リジーが彫刻でつくる女性たちがいろいろな動きや表情を見せているように、芸術の魅力も様々で、芸術家も千差万別なのだ。地味で控えめでも懸命に生きて創作活動を頑張っているリジーのことを周囲はちゃんと見ているし、ちゃんと認めている。それって素敵な世界だし、「どうあっても互いのクリエイティビティに敬意を示す」というアート界のスタンスみたいなものを感じられて、私としてはとても良い気分になった作品。
ストーリーではない部分で、空気や感情を掬いとるこういう映画は好きだ。ちょっとおかしくて、ちょっと皮肉で、「ああ、みんな頑張って生きているんだなあ」と、ちょっとだけ元気がもらえる。