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ショーイング・アップのyahのレビュー・感想・評価

ショーイング・アップ(2023年製作の映画)
2.3
意味のない作品だから意味がある。
フェミニズム的なメッセージなど1mmもない、意味のないアート映画だ。

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U-NEXTが主催、12/22より全国4都市4週間限定で様々なA24作品が上映される『A24の知られざる映画たち』という企画のプレイベントとして開催された試写会にご招待いただき鑑賞。

上映後は50分ほど、アメリカ在住のケリー・ライカート監督とZOOMで繋ぐティーチイン。

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陶芸家の主人公は、美術大学の教員を務めながらガレージのアトリエで作品を制作する。自身の個展が間近に迫る中、自由奔放な友人兼大家や父親、統合失調の兄、シャワールームで死に掛けていた鳩、その他諸々に振り回される日々を素直に切り取る1時間49分。

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ケリー・ライカート監督のティーチインがなければ、私はこの映画の評価を更に落としていたかもしれない。「特にそれと言った大事件は起きない日々」「そこまで意味のあるように思えない会話」「ほとんどBGMの流れない時間」が、冬の暖かい劇場で繰り広げられれば、隣に座る見知らぬ方はいつの間にか深い眠りにつき、私もそれに釣られてうたた寝しそうになるような作品だった。

私はやはり、映画には意味や、意表をついた刺激的な展開を求めてしまう人間だった。


一方デジタル撮影とは思えないような柔らかい映像は、観客からの質問にも上がるように、まるでフィルムのように美しかった。

ライカート監督曰く昨今のフィルムの価格高騰によりデジタルを選ばざるを得なかったが、まさにフィルムのような質感を目指すために、撮影監督が様々なソフトフィルターやレンズを試したようだ。黒澤明監督が使用した60年代のオールドレンズも使用されたらしい。(監督は最後までレンズの名前が思い出せなかったのが悔しいようで、締めの挨拶でも笑いながら話していた)
デジタルではハッキリクッキリと映りすぎてしまう映像に、程よい曖昧さをもたらしたようだ。

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また、ライカート監督は様々な質問に「特に意味はない」「実はそれにこれと言ったメタファーはない」「ただ主人公と隣人が動くきっかけを作りたかっただけ」「いいえ、意味はないんです」と、「私は強い意味を持たないアート作品を作ることに意味を見出している」と答えていたのが非常に印象的だった。


一方で、司会の中年男性が「最後に、これは私からの質問なのですが、この女性監督作品では、女性の主人公が女性の陶芸作品を作り続けています。私たちはそこからフェミニズム的な、何か学べるものがありますでしょうか」と問いかけ逐次通訳家が訳すと、監督の表情はたちまち固くなり、こう返した。

「NO! そんな意味はありません。確かに、映画の捉え方は人それぞれ、自由です。ですが、私自身はこの作品にフェミニズム的なメッセージを込めたという事実はありません。意味がないことこそ、意味があると思っています。」

司会者はこの数十分間、一体何を聞いていたのだろうか。きっと用意した質問で、ご自身の意識の高さを見せようとした時間だったのかもしれない。あの質問こそショーイング・アップのどのシーンよりも意味がなくて、『女性監督とアート映画とフェミニズム』が頭の中で自然と紐付いてしまう固定観念が彼の中で崩れたことは非常に意味があるのであろう。
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