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ショーイング・アップのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ショーイング・アップ(2023年製作の映画)
4.2
 オレゴン芸術工芸大学で美術教師を務めるリジー(ミシェル・ウィリアムズ)は彫刻家で、表現者としても知られている。彼女の住む家の隣には管理人で彼女と同じくアーティストを目指すジョー(ホン・チャウ)が住んでいてという物語の骨格そのものがケリー・ライカートの前作『ファースト・カウ』と同工異曲の様相を呈している。最新作となる今作も特に事件らしい事件は起こらず、取り留めのない時間が続くのが印象的で、リジーの家の給湯器が壊れ、管理人となるジョーに何度も修理を依頼しまくるのだが一向に応じず、裏庭のタイヤブランコ吊るしに注力するジョーの姿が笑える。彼女たち2人は互いにマイペースで、彼女たちなりの社会の規範も持ち合わせているのだが、元来芸術家というのは自由な変人ばかりなのである。日本なら給湯器が壊れれば銭湯およびスーパー銭湯に行けば良い話なのだが残念ながらアメリカにはなく、身体の汚れを落とせないリジーはストレスが溜まるばかり。どうしてシャワー付きのモーテルに行かないのか?おまけにジョーの作品は複数の個展で絶賛される。彼女のバランス感覚の良さとしなやかさに軽い嫉妬が募り、よこしまな考えの異性の表現者たちの手助けを良しとしない彼女はシャワーを求め父親の家を訪ね、やがて音信不通の兄との再会を果たすのだ。

 オレゴンの芸術家コミュニティとはこのような変人ばかりなのか。何やら出て来る登場人物たちはみんな何かを拗らせた偏屈者ばかりでリジーの出自に関してもこの親やこの兄あって、この子ありという納得の展開で、リジーの個展の開催日は迫るものの遅々として一向に製作は進まない。表現に没頭する時間を作ろうとすればするほどムダな時間に忙殺されて行くというのは表現者あるあるで、平坦に見える物語のしなにライカートは突如、白い鳩を持って来る。飼い猫が傷つけた幸福の鳥は翌朝、皮肉にも隣のジョーにより解放され、然し忙しい彼女から厄介な鳩はリジーの元へと再び戻る。この辺りのコミカルな主導権争いは心底笑えるが、いざ主人公のリジーの立場に立ってみればまったく笑えるはずがない。彼女の集中して創作に向かう時間はこのような足の引っ張り合いに思わぬ時間を取られ、片側が丸焼けになった奇妙なオブジェを飾る彼女の姿が妙に愛おしい。眩い空に飛び立つ鳩とは対照的に、雁字搦めのコミュニティの中で足を取られながら足掻くしかないリジーの悲喜交々が淡々と綴られた名作で、アメリカ映画に起承転結を求めない層にとってはシンプル・イズ・ベストな最高の御馳走。単純に『ファースト・カウ』と2本同時公開で良かったはずだが、A24のU-NEXTへの不良債権引き取りが成功したので、今回の特集の目玉として今作を持って来たU-NEXTの判断はあながち間違いではない。
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