シズヲ

EO イーオーのシズヲのレビュー・感想・評価

EO イーオー(2022年製作の映画)
3.9
動物愛護団体によってサーカスから解き放たれてしまったロバのEOが、穢れの転がる俗世を転々と彷徨う。鮮烈なポスターに惹かれて鑑賞、主演はロバとしか言いようがない。ロバが物語の“眼”となって世界を見つめていく。元ネタである『バルタザールどこへ行く』を先に見たかった気持ちもあるが、まぁそういうこともある。

あらすじにも書かれている通りにEOの“愁いを帯びた瞳”が強調されており、寡黙なロバの表情が特徴的な映像の中で切り取られている。エゴや巡り合わせに翻弄されながら途方に暮れるEOの閉塞と哀愁が全編に渡って浮遊し続ける。彼が何を思っているのか、彼がどんな心情で世界を見つめているのか、要所要所の描写が淡々と物語っている。サーカスの女性は明らかに彼を愛していたけど、EOもまた彼女を愛していたように見える。何だかこの辺りはどこか扇情的にさえ思えた部分はある。

冒頭から動物愛護団体によって一方的に解き放たれる際の“困惑”もそうだけど、EOは終始に渡って人間のエゴや社会に振り回されながら途方もない旅を繰り広げていく。ひたすら悲惨な目に遭い続けるというよりかは、宛もなく放逐されながらその過程で穢れを見つめていく(時に巻き込まれていく)ことになる。荘厳さを気取った演出は少々鼻につくところもあるものの、赤く染まる画面などの観念的な映像の数々はEOが見つめる“世界”と“心情”をアバンギャルドに描いている。

「動物や自然への想いから本作を撮った」というメッセージの割に些か作為的で擬人化が過ぎるきらいもあるけれど、カメラが捉えるEOの表情という“演出”の秀逸さで突き進んでいる。EOはただただ彷徨い続け、その眼差しで漠然と何かを見つめ続ける。寓話のようにも見える旅路の様子からは、辿り着く宛のない諦観すら漂ってくる。教訓やメッセージ性以上に、シュールな悲哀のこもった前衛性が際立つ。
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