はぐれ

EO イーオーのはぐれのレビュー・感想・評価

EO イーオー(2022年製作の映画)
4.0
人生を諦めて達観したようなつぶらな瞳のEO。その瞳に映る利己的な人間たちの醜い所業の数々。そしてそんな人間たちに翻弄される孤独なロバを俯瞰で捉える神の眼差し。VRでも味わったことのないくらいの途轍もない没入感だった。

ブレッソン版はあまりにも人間側に寄り添いすぎたきらいがあったが、スコリモフスキ版は真に動物視点に立ったまさにロバによるロバのための映画。『バルタザールどこへ行く』みたいに人間ドラマを無理に追おうとはせず、EOと関わり合いを持つ登場人物たちのストーリーも断片的なイメージでしか見せない。しかしその余白が観客の想像力を掻き立ててくれる。

ロバのいななきや荒い息遣い、犬の威嚇する吠え声、風の吹きすさぶ音、川のせせらぎ、工場の重機の軋む音、客席にいるとまるでフィールドレコーディングもののアンビエントミュージックに包まれているような感覚。それ故に意味を持つ人間同士の会話やEDMのような世俗的な音楽はこの世界において雑音でしかない。スコリモフスキの演出は会話を極力抑え、コントロールが効かない動物や自然界の移り変わりをありのままの姿で提供してくれる。

ブレッソン版の少女が途中からただのあばずれでバルタザールのことよりも自分を愛しすぎていた設定だったのも今作では心からEOを愛してくれているのが伝わってきて見ていて救われる気持ちになる。そんなのファンタジーかもしれないが純真無垢な清らかなイメージを一介のロバに押し付けること自体が土台無理があるんだからそこはご愛嬌(笑)

時代錯誤で不完全だったブレッソン版を現代的で普遍的なロバ映画へと華麗にアップデートしてくれた名匠スコリモフスキ。御年84歳にしてこのお仕事ぶり。お見事!!
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