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EO イーオーのペインのレビュー・感想・評価

EO イーオー(2022年製作の映画)
3.0
『イメージの本』という名の遺言を最期に遺し、怒れる独居老人ジャン=リュック・ゴダールは昨年この世を去ったが、もう一人の独居老人イエジー・スコリモフスキ(御歳85)が、また極めて私的な最新作を放った。

ゴダールはかつて手紙✉️でスコリモフスキに向け、“君と僕は世界一優秀な映画監督だ”と言ったが、実際にスコリモフスキは60~70年代にかけては“ポーランドのゴダール”とも呼ばれていた。

『アンナと過ごした四日間』(※これは傑作!)を経た後の前々作にあたる『エッセンシャル・キリング』(2010)からその片鱗は見せ始めてはいたのだが、やはりその後に妻ヨアンナ・シチェルビッチを亡くしたことが影響してか、より“閉鎖的”で“ソリッド”な作風に拍車がかかり、前作にあたる『イレブン・ミニッツ』は実に奔放(※良くも悪くも…)で、消費のしづらい作品だったことは確か。

そして前作ではまだ“ヒト”が主要人物だったが、今回はロバ(※監督曰く最も優れた“俳優”)を主人公に携えた、完全ロバ主観映画に。

かの女優ティルダ・スウィントンも、『バルタザールどこへ行く』(ロベール・ブレッソン監督)のロバの演技こそが至高と言っていたが、スコリモフスキもやはり同様に思っており、今回“俺の考えるバルタザール”を実現した。

ただ結論から言うと本作、それが決してうまくいっているとは言い難いように感じた。

何かを語っているようで語りきれていない、アヴァンギャルドなようで真にアヴァンギャルドに達していない、そんな印象とでも言うべきか🤔また、『バルタザールどこへ行く』に厚化粧してみました感が強く、これならば全然すっぴんの方が良いんだけどな~といった感触もある。

皆さんの感想でよく見かける、“85歳にしてキレキレ”、“尖っている”という表現は一瞬聞こえの良いものなのだが、安易にそれで片付けられてしまっている感も正直あるように思う。“映画界のレジェンド、イエジー・スコリモフスキ”というネームバリューに少々引っ張られてしまっている感想が多いように思うのは私だけだろうか?(※勿論心の底からwonderful!と思えたあなたに文句はありません)。

作り手が人間嫌いなのは構わないし、作品で人間の醜さ、滑稽さを炙り出すのはそれはそれはけっこうなのだが、それが直接映画としての“面白さ”“豊かさ”に直結させてくれないと1800円払って観ているこちらには苦行になる。

本作は作り手の厭世感やエゴばかりが先走ってしまい、それを伝える語り口、手法が追いつききれていないように感じて仕方ない←(※観ていてショットの力強さにはハッとさせられる瞬間もあるのだが、エモーションのピークという意味ではやはり冒頭数分に尽きる)。

ここで例に出すのはどうかと思うのだが、例えば同じ人間嫌いのインテリ爺さん監督リドリー・スコットによる、この10年くらいのフィルもグラフィー(※『プロメテウス』『悪の法則』『ゲティ家の身代金』『ハウス・オブ・グッチ』等)は、どれもその俗悪さが見事に映画としての面白さに直結しているのである(※あくまで私観ですが)。

その他にも近年のイーストウッドやスピルバーグといった爺さん監督の“成熟ぶり”と比べると、現状のスコリモフスキは、あまり良い歳の重ね方をしているように思えない…。また『早春』のような作品を!といったアホみたいな贅沢は言わぬが、個人的にはまた『アンナと過ごした四日間』のような作品を撮って欲しい。

※P.S.
先週観たショーン・ベイカー監督作『レッド・ロケット』の、ダメ人間ばかりを見せられた挙げ句に、それでも“あぁ~やっぱり人間に生まれて良かった”と爽やかな余韻に包まれた感慨と本作は色んな意味で対照的であった…
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