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EO イーオーのらのレビュー・感想・評価

EO イーオー(2022年製作の映画)
3.8
大した筋も無くて、完全に映像と音響の芸術だった。純粋な映画的映画。『TAR /ター』と同日に観たからすごい日になってしまった。ロバの目を通して描かれる人間の営みには、もちろん風刺の意味が込められているが、映画として強いメッセージや明確な判断は前傾化しておらず、ひたすら目の前で起きる出来事に揺さぶり続けられるような90分間。80代にしてこんなに強烈で迫力ある瞬間の連続をとらえることができるイエジー・スコリモフスキのソリッドさは驚異的だ。

観るまではあまり意識していなかったが、他の生き物でなく"ロバ"であるというのも重要な意味があるのだろう。人間にとっては便利で、文明の発展にも重要な役割を担ってきたはずなのになぜか価値は低く見積もられ、それどころか「愚鈍」の象徴として蔑まされてさえいる動物。本作はそんな「次元の違うアウトカースト」のロードムービーであり、そういう存在であるロバの視点からこそ明確に立ち現れてくるものがある。

「私たちは一体、今までにロバの気持ちなんて考えたことがあっただろうか?」思わぬ角度から想像力を与えてくれる映画だった。
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