不条理で欲深い人間という生き物を、観客である私たちがEO というロバの目線でそっと観ている… この作品に入りこむうち、いつのまにかそう感じてしまう。
愚鈍でのろまだというイメージのロバが、スコリモフスキ監督の手にかかればとても人間臭く、優しい気持ちを持っているように見えてくる。
スコリモフスキ監督は、かつてロバート・ブレッソンの『バルタザールどこへ行く』を観て泣いたのだという。そして彼の人生において涙を流した映画は『バルタザール〜』だけなのだと。
あの作品で涙を流せるというのはなかなか無垢で純真な心を持ってないと有り得ないと思う。公開当時、スコリモフスキは20代後半だったと思うので尚のことだ。
しかし、かつて私たちもそんな純真でピュアな心を持っていたはず。
誰しも子どもの頃はこんなふうに純粋にロバや牛や蝶々や花を、自分達と同じような心を持つ生き物として見られていたはずだ。
その、「純粋さ」というものを、成長し社会に揉まれても持ち続けるというのは困難なこと。
この作品はそんなことを私たちに思い出させてくれる。
なぜならこれは「純粋さ」についての物語なのだから。