Sophie

別れる決心のSophieのレビュー・感想・評価

別れる決心(2022年製作の映画)
4.1
互いにあえて言葉にしなくても成り立つ関係。それはロマンティックでありながらも、破滅へ向かう綻びが最初から存在するような関係なのか。それとも永遠に解くことが出来ない運命の赤い糸が紡ぎ出されるような関係なのか。

この映画は言葉によるあからさまな表現をできる限り避け、あらゆる映像での表現を最小限に抑えることによってなんとも言えない官能的な世界へ私たちを引き入れる。小説のように読み手に、この映画を観る者に映画内での表現をどう捉えるかを委ねている。その点においてもミステリー性があると言ってもいいだろう。

本作の主人公である刑事チャン・ヘジュンは、史上最年少で警部になり、プライベートでは週末婚でありながらも妻のいる充実した日々を送っている。努力を惜しまない真面目な韓国人の刑事である彼がとある転落死亡事故の捜査で、その転落事故で無くなった男の妻である中国人女性のソン・ソレと出逢う。密入国者で夫からDVを受けていたソレは、社会の弱者という立場にありながらも彼女の目は常に力強く気高く、人を魅了する。そんな二人の出会いは捜査官と被疑者妻という関係を超えた関係へと変貌していく。

この映画の中で殺人事件は3つ出てくる。1つは過去、2つは転落死事故とその後に起こる。
これらの殺人事件の犯人は誰なのかという謎を観客に投げかけつつも、ヘジュンとソレの関係性の行きつく先はどこなのか、ソレのファムファタールともいえる言動と行動の本意は何なのか、そんなロマンスの謎をも観客は気になって、どんどんこの映画に引き込まれていく。

人によっては、一瞬でわかる、時間をかけてわかる、どう考えてもわからない、といったとあるソレの言葉がこの映画には出てくる。ヘジュンがそれを真に理解したのか、それすらも映画内では曖昧に表現されている。しかし、私には一瞬でわかった。ソレのいうその言葉が何を指しているのか。いつ言った言葉だったのか。なぜなら、その言葉を相手が発した時、人は「別れる決心」をするのではないだろうか?愛しているからこその言葉に対して、愛しているからこその行動を取る。
心から愛する相手と別れる決心する時、それは単純な別れにはならないと私は考える。それは監督の考えと少し似ているのかもしれない。その別れのシーンであるラストは、私の心を大いに震わせた。

この映画はミステリーでありながら、Film Noirの特徴多く持つロマンティック映画である。そのロマンティック性は王道とはかけ離れている。しかし、実際に起こりうるロマンスは意外とこの映画のようなものなのかもしれない。この映画はそんな起きてもおかしくない非王道ロマンスに全振りしつつ、非日常を日常に上手く取り込んで表現する。だからこそ、人はこの映画に魅了されるのかもしれない。身近に感じられながらも非日常を味わえるから。

また、この映画のポスターは秀逸だ。観る前、観た後、それぞれでよく見て欲しい。
Sophie

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