なべ

別れる決心のなべのレビュー・感想・評価

別れる決心(2022年製作の映画)
2.9
 粗いな。疑われることで愛を感じる女と、容疑者だとわかっていても惚れてしまう男。好きな話なんだけど、ソレの容姿や行動に、「これは惚れてしまうわ!」と思える魔性が感じられなくて。メイクや衣装でもっときれいに、もっと妖しくできるだろうに。だから彼女に傾倒する刑事ヘジュンに共感できない。堕ちていく割に堂々としてるのもなんだかなあ。実はちょっと「愛の嵐」を期待してたんだよね。
 要は「氷の微笑」と同じなんだけど、あれはもう、容疑者が魅力の塊だった。ノーパンで脚を組みかえながら悪の匂いをプンプンさせる魔性たるや。それに溺れていく刑事の危うさよ。氷の微笑を思い出しちゃった時点で、この映画の負けは確定なんだよな。
 容疑者と刑事のどちらにも感情移入できない上、2人の惹かれ合う気持ちに説得力がないから、凝ったカメラワークやカットが上滑りしてる。上手く見せられないくせにテクニックに走る若い監督の作品みたい。ベテランなのに。何よりパクチャヌクのくせにベッドシーンがない!得意技を封印してどうする!パクチャヌクファンの皆さん、ですよね?ですよねっ?
 崩壊ってワードが時間差で相手に愛の言葉として届くくだりだけは素晴らしいなと思った。ここだけは褒めておきたい。ソレが中国人である理由がきちんと生きていた。

 このテーマなら映画よりドラマの方が向いてる気がする。エピソードごとに疑惑と執着と愛憎がぐちゃぐちゃになっていくかんじね。気がつけばどっぷりぬかるみにハマってもがけばもがくほど沈んでいくみたいな。
 ところどころの笑える演出も成功してないように思えたし、最初の犯行のトリックを暴いたところも、「え、このタイミングでそれやるの?もうそこはいいから先に行けばいいのに」と、情報開示のタイミングの悪さに、作品への興味を削がれてしまった。そうなると起こる出来事が退屈に思え、決死のラストトリックも、本来印象的なはずなのに、ふーーんと心が動かない。パク・チャヌク、下手になったな。
 復讐三部作のあとはお嬢さんしか見てないが、先日観たオールドボーイのキレッキレの語り口や迸る情動の鮮やかさに比べると、何カッコつけてんだよ、ハンパな仕事してんじゃねーよと、叱りつけたくなった。いや、できる子だと知ってるからさ。
 ボーンズアンドオールも別れる決心もそうだけど、SNSで絶賛されてる映画は要注意。観る前から褒める気でいる褒めたがりが暗躍してるように思う。
 ぼくはもっと2人の気持ちに寄り添いたかったよ。
なべ

なべ