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別れる決心のinotomoのレビュー・感想・評価

別れる決心(2022年製作の映画)
4.1
刑事のヘジュンは、山から滑落し死亡した男性が、他殺の可能性があるとして捜査をする。容疑者として浮上したのは、亡くなった男の妻のソレ。ソレは夫から暴力を受けていることがわかるが、彼女にはアリバイがあった。ヘジュンはソレに会った時から彼女に惹かれていく。
監督はこの作品でカンヌ映画祭で監督賞を受賞したパク・チャヌク。

パク・チャヌク作品にしては、バイオレンス描写は少なく、いわゆるサスペンスラブストーリー。配信で見たので、一気に見られず、分割で鑑賞。イマイチ作品にのめり込んで見られなかったのが正直なところ。でも濃密な大人の恋を描いているその空気というか、何とも言えない悲しみや切なさは心地良かったし、官能という言葉とはちょっと違う感触ではあったけど、どうしようもなく相手に惹かれていく、もどかしさみたいな感情は伝わった。過去のパク・チャヌク作品のようなギラギラした熱量たっぷりの作品ではないけど、まさに大人のラブストーリーと言うべき作品だと思ったし、死体の瞳の上を這う虫とか、不眠症でギンギンになっている目に入れる点眼薬とか、カメラアクション含めて、印象的な映像はさすが。絶妙なタイミングで現れるユーモア、事件の真相を描いた場面、離れた場所から相手を見ているのに、近くにいる妄想を映し出すところとか、演出は本当に素晴らしかったと思う。

ヘジュン役のパク・ヘイルは、「殺人の追憶」「グエムル」がめちゃくちゃ良かったので、その印象が強かったけど、不眠症で鬱気味、生真面目な刑事のヘジュンにハマっていたと思う。くたびれた感じとかもリアルだったけど、ギラギラしたり、虚無感だったり、様々な瞳の表情が印象的だった。
ソレを演じたのはタン・ウェイ。彼女の作品は「ラスト、コーション」以来。過酷な人生を歩んできたソレの、どこか開き直った感を醸し出すタン・ウェイの演技はとても良かったし、中国にルーツがあるソレのキャラクターにもぴったりだった。色気という言葉とはまた違う女性的な魅力を演技から感じたし、そこには強さと弱さを両方持ち合わせたソレの内面がしっかり表現されていたと思う。
懐かしきドラマ「美しき日々」でアーティストを夢見る少女を演じていたイ・ジョンヒョンが、ヘジュンの妻役を演じていて時の流れを感じた。また、ヘジュンの後輩役でコ・ギョンピョが出ていて、ドラマだけでなく映画でも活躍していて嬉しい限り。結構色んなタイプの役をこなせるんだなぁ。

中国語と韓国語を両方話しながら、そこで生まれた理解の違いみたいなものがストーリーに活かされているところも面白かった。ソレのヘジュンに対する思いも、セリフで直接的に多くて語られるわけではないけど、思わずヘジュンの仕事の現場に追いかけて行ってみたり、その行動で見せていくあたりもうまい。ヘジュンがソレに対する思いを語ったその言葉を、自分に対する「愛してる」という言葉だととらえ、録音したそれを何度も繰り返して聞くあたりの健気さ。仰々しい音楽や、ありきたりのセリフで煽ったりしないからこそ活きる、たった一度のキスシーン。まさに大人の洗練されたラブストーリーだと思った。

考察や解説動画を見たら、山と海がそれぞれヘジュンとソレを象徴しているのだとか。
ラストの海の場面はあまりに悲しく美しい。
できれば大きなスクリーンで集中して見たかった。
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