どらどら

逆転のトライアングルのどらどらのレビュー・感想・評価

逆転のトライアングル(2022年製作の映画)
5.0
- Money!Money!Money!

アンチ•資本主義映画の新たなマスターピース
この世界のシステムはとっくに破綻していて
しかしそのシステムに骨の髄までどっぷり浸かっている我々に
幸せな生も、ましてや死など訪れるはずはないのだ

たらふく食べた高級食材と
水の代わりのシャンパンからなる
自らの吐物に窒息するのがせきの山だ

オルタナティブな世界を志向する映画の試みは極めてシンプルな理由で破綻する

それは「人間の所有欲」

これから自由にならない限り我々はオルタナティブな世界になどたどり着けないのだ
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資本主義者のロシア人と共産主義者の(しかも少し裕福な)アメリカ人
「女性の方が稼ぎが多い」という一点において(それだけのことで!)ほぼ崩壊してしまっているカップル(toxic masculinityの扱い方として最近見た映画で最も完璧だと思った)
穏やかなクルージングを楽しむ死の商人
あるはずもない帆の汚さを指摘し続けるマダム(彼女にとっての真実とは彼女の感じたことでありそこに客観的事実の屹立する余地はない!)
こき使われる海賊
“Everyone is equal”の文字の白々しさ
ルッキズムとレイシズムとホモフォビアが平然と横行する世界
この世界はとっくに破綻している

“逆転”にカタルシスを覚えざるを得ない
奴らは水を飲むことさえできず
自らの吐物に溺れ
自らの商品で爆破され
無価値な高級時計しか頼るものはないのだ

トイレ係のアビゲイルは違う
火を起こし、漁をし、料理もする
全ての価値が転覆した世界で彼女が行うことは極めてシンプル
「支配」である
物的な支配権を獲得し、それを振りかざすことであらゆる要求を達成する
彼女はどこまでも自らの欲に忠実だ
つまり、彼女も奴らと”なんの違いもない”のである

ラスト、もうひと反転が訪れる
アビゲイル無双状態に突如として提示される再反転の可能性
アビゲイルは当然それを飲むことなどできない
ヤヤの”提案”のあまりの的外れさに思わず失笑せざるを得ない
その的外れさで命が失われるのに

どこまでいっても資本主義の論理から抜け出せない我々に幸せな生も死も用意されていないのだ
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