なお

逆転のトライアングルのなおのネタバレレビュー・内容・結末

逆転のトライアングル(2022年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

今冬の個人的話題作のひとつ。
監督はカンヌ国際映画祭にて数々の受賞歴を持つリューベン・オストルンド。
ちなみに本作も第75回の同映画祭にて最高賞となるパルム・ドールを受賞している。

ちなみに、本作で主要人物のひとりを演じたチャールビ・ディーンは病気により2022年に32歳という若さでこの世を去った。
そのため、本作が彼女の遺作となっている。

✏️形勢逆転
「革命」
「下剋上」
「ジャイアントキリング」
古今東西いつの世も、貧困層が富裕層を打倒しヒエラルキーを逆転させてきた。

日本のみならず現代社会においても、昔ほど露骨ではないにしろ「富裕層」と「貧困層」にハッキリと身分が分かれている。

本作は、その身分の違いをある事件をきっかけに逆転させたら人はどう振舞い、どう変貌を遂げるのか…?という要素を描くブラックコメディ的作品。

自分はコメディにしろドラマ的作品にしろ「弱者が強者をやっつける」な作品が大好物なので本作にもそれなりの期待を寄せていたのだが、う~ん。
なんだかあまりハマらなかった。

たぶんだけど、この映画の肝である”パート3”無人島編に行くまでのストロークが長い。
そして、無人島編で形勢逆転してヒエラルキーのトップへとのし上がるトイレ清掃員・アビゲイルに感情移入する隙間があまりなかったように感じた。

というのも、”パート2”船内編でアビゲイルらトイレ清掃員が登場するのは数分程度。
ここでもう少し、富豪たちや乗員たちに清掃員が虐げられるシーンがあれば、見ているこちら側はそいつらにヘイトを溜めることができるし、のちのアビゲイルの大逆転劇も面白く痛快なものに映ったかもしれない。

無論、船の中でのシーンがつまらないというわけではなかった。
カネや権力に物を言わせて乗員たちをコキ使う富豪たちと、カネ(=チップ)のためにそれを受け入れこびへつらう乗員たちの姿は、この手の滑稽物としては王道の要素だし、実際それなりに面白い。

先日見た『バビロン』に負けず劣らないレベルで汚物が画面上を埋め尽くすし、そんな最中でふつうにコース料理を運ぼうとする乗員たちの姿はかなり奇怪。
この点はちょっと、昨年公開の『ザ・メニュー』にも似た狂気を感じた。

キャプテンと酔っ払いの富豪の会話は若干、いやかなり冗長。
資本主義と共産主義のことについて語っていたと思うが、私には半分くらい何を言ってるのか分からない時間だった。

無人島編に話を戻す。
ヒエラルキーの逆転が起こり、最下層だったアビゲイルは頂点へ、最上位だった富豪たちはメシと寝床、そして安心した生活を送るために逆に媚を売る立場になる。

ここで面白いのは、カールとポーラの立場が船内と無人島であまり変わっていないこと。
彼らは、特別な金持ちでもなければ別に底辺でもない”中間層”に位置する人間なので、あまり立場が変わっていないのでは?と思った。

また、無人島に漂着したメンバーの中で唯一の黒人(名前忘れた)の彼の立ち位置もあまり変わっていない。
ブルーワーカーかつ黒人という、不本意なレッテルを張られやすい立場のため、本来であれば彼もアビゲイルと同じく上位層に君臨してもいいはずだが、そうはなっていないように見える。

これは、彼もカールやポーラと同じく中間層ということなのか。
はたまた、「どんなに世の中が変わっても、黒人の地位は変わりづらい」というメッセージなのか…?
これについては、ちょっと自分の発想が飛躍しすぎている気もするけど。

そして、なんとも考察しがいのある、また他人の考察を読むのが楽しみになるラストシーン。

✏️リゾート施設
結局あの無人島はリゾート施設で、漂着メンバーはこれまた九死に一生を得たことになる。
このまま終わればハッピーエンドだが、当然そうはならないし、これを良しとしないのがアビゲイル。
なぜなら、施設の存在が判明すれば自分の立場はまた最下層に戻ってしまうからだ。

施設の存在をなかったことにしようとヤヤの殺害を図るが、ヤヤからアビゲイルへ思わぬ一言が。
「私の付き人になってほしい」

この打診を受ければ、ここでヤヤを殺害せずとも自分の社会的立場はランクアップすることになる。
しかし、無人島での生活を続けトップとして君臨し続けるという選択肢も捨てがたい。
あの苦渋の表情の結末はどちらだろうか。
(自分がアビゲイルなら殺さないかな…)

✏️誰がために走る
そしてもう一つ、カールがアビゲイルたちが通った道を猛ダッシュしているシーン。
このシーンを最後に本作はスタッフロールへと移るが、恐らく自分含め多くの観客が混乱させられたことだろう。

あのカールの表情から「俺も施設に行くぞぉ!」と意気揚々と張り切って走っていたわけではないと思う。
それに、単純に施設に向かうだけならあんなに猛ダッシュする必要はない。

恐らくだが、カールは半身不随のマダムが出会ったブランド品を売り歩く行商から件の施設の存在を聞いたのではないか。

そのことを知り、カールは急激に不安になる。
アビゲイルが施設の存在を知ったら、この無人島での立場(=生活)が一変することになる。
そうなればアビゲイルは施設の存在を隠すため、ヤヤの命を奪いかねない。

そう思考した末の、アビゲイルの凶行を止めるための懸命の走りだったのではないかな、と思った。

☑️まとめ
考察しがいのあるクライマックスシーンは良かったけれど、そこにたどり着くまでの道程が、長く若干退屈。

予告編を見ずあまり情報を入れない状態で見た方が楽しめたかも?
日本版の予告だといかにも「トイレの清掃員が逆転を起こしまっせ!」的な煽り文句に聞こえたので、そこに期待した部分も大いにあった。

あと、冒頭のモデルたちが集まってるシーンとか必要だったのかな…
カールが「売れないモデル」であることを示すためだけなら、ヤヤとの会話だけで済ませることもできたはず。
ヴァレンシアガとH&Mのくだりは面白かったけど。

<作品スコア>
😂笑 い:★★★★☆
😲驚 き:★★★★☆
🥲感 動:★★★☆☆
📖物 語:★★★★☆
🏃‍♂️テンポ:★★★☆☆

🎬2023年鑑賞数:24(7)
※カッコ内は劇場鑑賞数
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